合意なき離脱がもたらすもの
ここまで酷くなくても、メディアの大方の論調は、ポピュリズムに屈した英国と、その我儘を見守る大人のEUだ。もっとも、むしろEUの方が英国を口汚く罵っているのだが。
とはいえ、前述の記事は嘘か、著しい誇張だ。そもそも関税同盟から抜けることは、禁輸を意味するのだろうか?EUから抜けたからと言って、EUおよび世界の他の国々との貿易ができなくなるわけではない。
貿易合意とは、要はコストの問題で、輸入品が割高になるだけで、なくなることはないのだ。
合意なき離脱とは、基本的には英国はEUを失い。EUは英国を失うということだ。英国がEU以外の世界を失うわけではなく、EU以外の世界が英国やEUを失うわけでもない。
基本的にと断るのは、EUに留まる限り、英国は他のどの国とも貿易協定などが結べないので、離脱後に新生英国として協定、契約の結び直しとなるからだ。
このことが示唆しているのは、最悪なのは交渉期間の延長だということだ。この期間は、英国在住の企業も、英国と取引をしようとする企業も、何も決められない。現状では、本当の交渉相手はEUなのだが、EUは当然、EU抜きの交渉を認めようとはしないからだ。
ブレグジットをキャンセル、残留すればどうなる?
フランスを含む、ほとんどのユーロ圏諸国の政府は、EU政府の強権に辟易している。
とはいえ、通貨・金融政策を統一してから20年にもなろうとしているので、引き返すことができないのだ。
一方で、欧州統合のもう1つの柱であった財政や年金など社会保障基金の統一に向かっては、前に進むことを止めてしまった。
このことは、英国がブレグジットを反故にし、EUに残留しても、得られるものは何もないことを意味している。
私のコメントを初めて読む方々もおられるだろうから、2016年6月24日に「MONEY VOICE」に寄稿した私のコラムから要点を引用する。
<英国人がEU離脱を望んだ3つの理由>
EU離脱を望む英国人が抱く懸念を、主に英文で書かれた情報をもとに、私が勝手に推測すると、
- EU政府が官僚的で、必ずしも英国の国益に沿った政策を行わない
- 欧州の統合はもはや現実的ではなくなった
- 移民、難民問題
の順になる。英国人にとっては、これらの懸念が、「景気減速、失業、給与下落、資産価値減少、格下げ」などといった、明日からの生活を脅かすような懸念をも上回ったことになる。順に解説しよう。
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