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アボカドとバナナが消えると脅されても、英国が期日通りに「合意なきEU離脱」をすべき理由=矢口新

英国人がEU離脱を望んだ3つの理由

<1:EU政府が官僚的>

リーマン・ショックが起きた時には、FRBはすでに政策金利を3.25%ポイント引き下げており、BOEでも0.75%引き下げていた。BOJは横ばい。ところが、ECBは何と利上げしていたのだ」

「欧州にも住宅バブルの崩壊があった。英国やアイルランド、スペインなどだ。それで、英国は利下げしたが、ユーロ圏のアイルランドやスペインは逆に利上げされたのだ」

「(参照図を)ご覧のように、2007年まではアイルランドの失業率だけが5%以下と最も低かった。当時のアイルランドは他の経済指標も良く、ユーロ圏随一の経済優等生の1つだった。ところが、サブプライム、リーマン・ショック後には、一時14.7%にまで急上昇する」

ECBはドイツを優先し、ドイツのインフレ懸念のために利上げしたのだ」

「2005年時点で失業率が2桁台だったのはドイツだけだったが、10年後にはドイツだけが5%以下となった。逆効果となった残りの諸国はほとんどが2桁台。ギリシャやスペインは今も20%を超えている」

「このグラフは、先の失業率のグラフ以上に、驚きではないだろうか?両ショック以前に(財政)黒字なのは2カ国だけ、アイルランドスペインだ。PIIGS(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)を『醜い子』と意訳するとすれば、その昔、両国は『白鳥』だったのだ。今は誰かに汚されて、醜く見えるだけなのだ」

「景気後退時に、税収が減ったことを理由に緊縮財政を行うことは、例えれば、震災で税収が減ったところに、復興予算を組む代わりに、予算を取り上げ、公務員を削減するようなものだ。

こういった驚くべきことがユーロ圏では実際に行われ、挙句にPIIGS諸国はドイツのお荷物だと揶揄された。このことは、ユーロ圏各国には、それぞれの国情を反映する通貨・金融政策がないばかりか、財政政策も事実上ないことを意味する。つまり、経済政策がない故の経済危機、高失業率だと言えるのだ」

「こういった事実を鑑みれば、『景気減速、失業、給与下落、資産価値減少、格下げ』などを持ち出されて、EU離脱は英国自身のためにならないと、ほぼ全世界から脅されても、自国の政治、政策の独立を守りたい人がいて不思議ではない。約半数がそう判断できる英国人は極めて健全だと言える」

<2:欧州の統合はもはや現実的ではない>

「欧州連合は、将来的に1つの国に統合することを目的として設立された。当初の鉄鋼、石炭生産の統合から始まり、シェンゲン協定による国境検査なしの自由な往来、ユーロによる通貨・金融政策の統一と発展してきた。

そして、残るは財政と社会保障費などの統一となった。そのための財政赤字幅がGDP比3%以内という規制なのだ。

ところが、サブプライム・ショック、リーマン・ショックに起因するPIIGS危機以降、強硬に反対する国が出てきた。言うまでもなく、ドイツだ。それは財政収支のグラフを見せれば、すべての人を納得させられる。失業率のグラフでもいい。過去は過去、今となっては、ドイツに統合のメリットはない

<3:移民、難民問題>

「移民・難民問題は、英国の問題というより、欧州大陸の問題で、英国は巻き込まれたくないというのが率直なところだ。一般的に解説されている様に、英国人にとって移民が職を奪うというのが大問題なのなら、『景気減速、失業、給与下落、資産価値減少』などという脅しに屈していたはずだ」

「欧州大陸では難民の急増や相次ぐテロ以降、シェンゲン協定が形骸化し、移動の自由も脅かされている。つまり、欧州統合はどこから見ても、現実的ではなくなった。英国人は痛みを承知で、損切りしたのだ」

上記のコラムで触れた頃、ブレグジット投票前後の英国は、EUの重要なメンバーだった。ユーロ圏ではないので、ECBの通貨・金融政策に対する発言力はなかったが、他の部分では、少なくともコア構成国のフランス並みの発言力があった。それが離脱を決めてからは、裏切り者・よそ者扱いだ。

例えれば、EU社の役員であった英が独立を宣言したが、契約等の問題ですんなりとは退社を認められず、2年9カ月後でもまだ籍があり、出社もしているようなものだ。英にはもはや何の権限もないようなものなのだが、出社の義務だけ課せられているので、英をサポートしようとしていた所も、サポートのしようがなく離れてきている。

一方で、英の独立宣言は、EU社内の改革派の火をつけた形となり、他の役員や従業員の忠誠心が下がってしまった。フランス政府は、先頃IT企業への課税を巡って、EU政府の指示から逸脱。また、イタリア政府は財政案で、EU政府に赤字枠の拡大をわずかながらも認めさせた。

Next: 離脱期間延長が最悪のシナリオ。英国は期日通りに「合意なき離脱」をするべき

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