ベネズエラ紛争の深層について解説したい。大手メディアは原油の奪い合いに言及しているが、裏ではレアアースをめぐって米中の熾烈な争奪戦が行われている。(『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2019年4月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
狙いは原油に非ず。見えてきた米中ロのレアメタル争奪戦と結末
混乱が続くベネズエラ
あいかわらずベネズエラでは、混乱が収まる気配はない。インフラの未整備による発電所の火災によって、先月から大規模な停電が発生していたが、さらに4月1日には断水が発生し、数百万人もの市民が水道水のない生活を強いられている。首都カラカスでは、怒りを募らせた市民らがデモ行進して停電と水不足に抗議した。この事態を受けて、ニコラス・マドゥロ大統領は電力供給を制限すると発表した。
また翌日の4月2日には、数千もの国民がコロンビアとの国境沿いのバリケードを破壊して、同国に入国した。マドゥロ大統領は、アメリカが主導する人道支援物資の国内搬入を阻止するため、2月から国境に架かる複数の橋を封鎖しているが、これが突破されたのだ。
しかし、このような状況にもかかわらず、マドゥロ政権への支持はさほど揺らいでいない。ベネズエラ国軍は引き続きマドゥロ政権を支援しているし、低所得層を中心とした約半数の国民もマドゥロ政権を支持している。
他方、欧米が支持を表明しているグアイド暫定大統領だが、徐々に支持を拡大しながらも、マドゥロ政権を打倒できるほどの国民の支持は集まっていない。グアイドはベネズエラでも有数の富裕層出身のエリートである。また、アメリカの政府系シンクタンクとのつながりが深いワシントンのジョージワシントン大学の出身者だ。そうした背景もあり、反米感情の強い中所得層以下の国民にはあまり人気がない。
米軍の圧力と「S-300」を配備するロシア
これはまさに膠着状態である。はっきりとした打開策が見えない状況だ。さらにこのような情勢に拍車をかけているのが、アメリカとロシアの動きだ。
米トランプ政権は隣国のコロンビア、ならびにプエルトリコに約5,000名の兵力を待機させていると見られている。
一方、ロシアもこの動きに対抗し、高性能迎撃ミサイルシステム「S-300」を首都カラカス近郊の空軍基地に配備した。先月、100名ほどのロシア兵がベネズエラに到着したが、これは「S-300」を操作するための要員ではないかと見られている。実際に先月から、「S-300」の実戦配備に向けた準備の動きが確認されている。
だが、米軍の情報誌などによると、コロンビアやプエルトリコの米軍は増員されているものの、その動きは人道支援物資の輸送を中心とした準備で、実戦部隊の動きはないという。またマドゥロ政権やロシアも、「S-300」の配備を越えた軍事的動きはいまのところ見られない。
このような状況から、トランプ政権はロシア軍やベネズエラ軍とまともに衝突する意志はまったくない。軍事的にも膠着状態が続いている。