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「逆石油ショック」が発生するメカニズム~原油下落の何が問題か?

現在の状況に当てはめてみると?

モデルだけではなく、今日の状況を当てはめてみましょう。産油国の価格支配力が大きければ、価格急騰も可能で、逆に価格が下落してもすぐに引き上げればよいわけです。

ところが、産油国がOPEC以外にも増え、OPECや産油国の価格支配力が低下し、中国など巨大需要国が弱まると、原油価格の引き上げ自体ができなくなりました。その分、価格下落が長期化します。

また、原油価格下落がその他の資源価格下落も誘発し、産油国Aに相当する国が、かつてよりも多くなっています。今、価格下落で困る国はOPECのほかに、ロシア、米国、カナダ、ブラジル、オーストラリア、南アフリカなど多岐にわたるようになりました。ロシアやブラジルなどのGDPは大幅なマイナス成長となり、その他の資源国も減速を余儀なくされています。

一方、消費国では米国の自動車販売が増えたものの、ガソリン消費の増加も限界があり、日本では軽自動車の税制が変わったこともあって、原油価格の下落の割に消費や投資が高まっていません。交易所得が増えた国のGDP増加が、資源国のGDP減少をカバーしきれていません。しかも、オイルマネーの減少が金融市場に収縮効果を持ち、株価下落の一因にもなります。

多岐にわたる原油下落の悪影響

更に、資源関連の金融商品が売られ、米国のジャンク債金利が急騰、消費国側の投資家が大きな損失を被っています。資源関連のデリバティブス商品への投資については、今後様々な形でロスが表面化してくる可能性があります。

原油価格の変動は、基本的に所得分配を大きく変えます。これが軽微なら、産油国、消費国の生産にあまり影響しませんが、これが大幅かつ長期化すると、価格上昇でも下落でも、生産活動全体でみると悪影響をもたらします。

特に、今日のように原油価格の下落が産油国の気まぐれではなく、需給悪化で調整不能となれば、逆石油ショックを考えねばなりません。

所得分配の急激な変化は、石油価格の急変以外にも起こりえます。例えば、日本ではアベノミクスがパイの拡大ではなく、円安や増減税など所得分配の急変によって企業利益の急拡大、労働分配率の低下を引き起こしたために、企業がその利益を使い切れず、内部留保に回す分、需要全体の減退、景気悪化をもたらしました。いわば「逆利益ショック」です。

価格の急変であれ、政策によるものであれ、所得分配の大規模な変化は、生産活動、経済活動にマイナスの影響を与えかねません。

かつての日本のように、20年も物価が動かず超安定していた状況をデフレと非難せず、むしろ経済の安定をもたらした点も評価すべきではないかと思います。

【関連】中国発「逆オイルショック」はこれからが本番だ~高まる世界デフレリスク

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マンさんの経済あらかると』(2016年1月18日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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