米国では「バーナンキの逆説」があった
【国債のマネタイゼーション】
元FRB議長のバーナンキは、恐慌学者ですが、リーマン危機のQE(量的緩和4兆ドル)のとき、記者に問われ、以下のように答えてしました。
政府の発行する国債をFRBが買って「マネタイゼーション(国債の現金化)」をすれば、政府紙幣の発行と同じになる。政府紙幣の発行が有効なら、政府は、財政支出を税収でまかなう必要なくなるだろう。つまり、無税国家も誕生できることになる。
【税金は、民間の商品需要を減らす】
税は、国民の購買力を削減するものである。税金を払った分、商品は買えなくなるから。しかし、無税にすれば、民間経済が、「GDP=生産力=所得=需要」になるだろう。
【政府紙幣】
その中で、政府が政府紙幣の増加発行により、財政支出という需要を作ると、民間需要で100%になっている生産力に対して、超過需要を作ることになる。
つまり「需要量(国民の無税所得+財政支出)>商品生産力」である。その結果、大きなインフレになっていく。インフレとは、金利の上昇であり、同時に政府紙幣の価値の下落であり、自由な外為市場では通貨の暴落になる。
【金融危機への効果的な対策は、政府紙幣だけではない】
不良債権により銀行の資産が縮小したことからの、マネーサプライの減少という金融恐慌が、実体経済の需要を減らす恐慌に波及する恐れのときは、
・中央銀行が国債を買って、マネーを増発はしても、
・政府紙幣の発行は、行うべきではない。
【プラチナコインの政府通貨のアイデアは、MBSの買いになった】
じつはリーマン危機のあと、オバマ内閣の議員からは、「政府が、1枚で1兆ドルのプラチナコインをFRBに発行し、FRBは1兆ドル増発して政府に与え、政府はそれを財政支出(=銀行の資本支援)につかえばいい」というアイデアもあったのです。
これは政府通貨の発行と同じです。さすがに実行はされませんでした。10年前に、現代貨幣論が登場していれば、FRBも行ったかもしれません。
当時は、クルーグマンが日本に勧めた「ケインズの流動性の罠論」しかなったのです。「復活だぁっ!日本の不況と流動性トラップの逆襲」(山形浩生訳)2001年:(クルーグマンの金融理論です)。
※参考:復活だぁっ! 日本の不況と流動性トラップの逆襲
FRBは、オバマ大統領の顔を刻印した1兆ドルのプラチナコインの代わりに、AAA格で60%に下落してBBB格は価格がゼロになっていたMBS(住宅ローン担保の回収権の証券)を約2兆ドル(220兆円)、市場の時価ではなく発行額面で買って、金融機関に無償でマネーを与えました。
【米国の金融危機からの離脱は、株価の上昇によって果たされた】
この2兆ドルの増発マネーが、同じFRBによる国債のマネタイゼーション(2兆ドル)と一緒になって、
・社債での借り入れから、株の購入(自社株買い4兆ドル:2011年~18年)に向かい、
・株価は3倍に上がって(時価総額3,000兆円)、株を資産としてもつ米国の銀行は、資本を回復しました。
ドル増発は、米国では、「社債による4兆ドルの調達→自社株買い4兆ドル(440兆円)→S&P500社の株の時価1,200兆円上昇→株価時価総額3,000兆円→3倍に上がった株をもつ銀行の自己資本の回復→銀行の債権購入→企業と世帯のマネーサプライの増加」と波及して、金融危機は収まったのです。
これが、米国経済が好調(需要が好調)といわれてきたことの内容です。1980年代以降の米国経済は、日本より激しく「金融化」しています。
「FRBの4兆ドルのドル増刷→社債発行による自社株買い4兆ドルを主導因として、S&P500社の株価が1,200兆円上がった→米国経済が好調」という逆転した論が興ったのです。犬のしっぽが、犬を振り回したことと同じです。
リーマン危機のあと、所得で下位90%の世帯の物価上昇率を引いた所得は、伸びていません。株価の上昇で、所得が大きくなった人が、下位の所得も増やすというトリクルダウンという奇妙な経済論すら出ています。米国は、(長期間の維持はできない)超絶的な所得格差の国になっています。