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eギフトを展開するギフティが新規上場、さらなる成長は商品の差別化がポイント

体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

実際のシストでは、隠す人が小さな物と紙を容器に入れてはじまります。今回の場合は、モノは必要ないので、隠す人がeギフト用のQRコードが印刷された紙切れなどをどこかに隠すことからはじまります。この際に障害となり得るのは、隠す場所です。

Enpediaは次のように指摘しています。

それから容器を隠す場所を決めてヒントを書く。その際に変電所など感電する恐れのある場所や落下する場所、爆発する恐れのある場所、ダイビングやロッククライミングの必要な場所、その他法律に違反する場所にかくしてはいけない。また、私有地に隠す場合は土地の権利者に許可を取らなければならない。

次に、宝のありかをヒントを書く。あまり難しすぎてはいけない。

探す側は、見つけたeギフト用のQRコードを専用アプリで読み込ませることで商品が受け取れます。この際、見つけた人が何らかのメッセージを残せば「eギフトを贈った側と贈られた側がつながる」という、ある意味ですぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

実際のシスト(宝探し)は街中で行われますが、同社グループが運営するシスト(宝探し)は、基本的にこのサービスに加盟している飲食店や小売店等のなかで行われます。したがって、同社グループの収益の柱となるのは、加盟店から受け取る会費です。では、社内プロセスの統合という意味で同社グループにとって何が課題となるのでしょうか。

QRコードを使ったシスト(宝探し)自体は容易に模倣されるので、それだけでは競争優位にはつながりません。したがって、eギフトで交換できる商品で差別化する必要があります。具体的には、手頃な値段でかつ気が利いた小物や雑貨であり、オンリーワンである必要があるでしょう。

では、同社グループがこうしたシスト(宝探し)を展開するのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社グループはリトル・ハイア──シスト(宝探し)に参加した人の数──を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
・https://enpedia.rxy.jp/wiki/シスト_(宝探し)
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2019年10月9日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

image by: 株式会社ギフティ公式サイト

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2019年10月9日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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