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クルーグマンと安倍首相の議事録『Meeting with Japanese officials』を読む=吉田繁治

日本政府の累積債務問題を考える

(1)国債の大きさ
日本の国債は1034兆円とGDPの2倍です。海外が100兆円、日銀が352兆円、国内の金融機関がほぼ600兆円を持っています。GDPに対する財政赤字も、先進国で最大の6%~8%なので、年間で30~40兆円増加し続けます。

(2)金利の低さ
現在の、10年債以下の金利はマイナスなので、平均金利を0%とします。

(3)インフレと金利
政府が、国債を増発し、財政出動をして、その結果、クルーグマンが言うように物価が、恒常的に2%上がるようになったとします。金利の均衡点は〔長期金利≒実質GDP成長率+期待インフレ率〕、です。

財政出動で、実質GDPが2%増、インフレ期待が2%になると、長期金利は、4%に向かって上がります。日銀は金利を抑える役割を果たすので、長期金利が3%になったとします。

(3)金利ゼロの、1034兆円の既発国債の価格は、以下のように下落します。平均残存期間を7年とします。

1034×(1+0%×7年)÷(1+期待金利3%×7年)=1034÷1.21=845兆円

つまり、1034兆円の国債の流通価格が845兆円へと、189兆円も下落します。こうした金利上昇の気配が見えると、金融機関は手持ち国債を、先を争って売るようになります。

売られる国債価格は(日銀が買っても)一層下落し、金利は3%以上に、相当に急激に上がるようになります。クルーグマンが言う「頑健な国債市場」は、金利上昇で、ずぶずぶになるでしょう。
(注)マイナス金利の現在、円の金利が0.5%に上がるだけでも、国債をもつ金融機関は、パニックになるでしょう

金利の上昇(=国債価格の下落)を止めようとして、日銀が売られる国債を全部買い受けた場合、ごく短期間で、1034兆円の国債が日銀所有になります。

日銀は、国債の所有で200兆円近い損失を蒙って、完全な債務超過になります。これは円の、通貨としての国際的な信用を落とすため円売りが起こり、為替は、急速に大きな円安になります。

円安とは、「ドル買い/円売り」であり、円が海外にキャピタルフライトすることです。大きな円安は、円の金利を上げる働きをします。

(4)
国債を日銀に売ってしまった金融機関は、日銀当座預金に、1000兆円近い、ゼロ金利のマネーを置くことになります。

この場合、金融機関は、日銀当座に預けるゼロ金利の資金を、ドルやユーロに変換するでしょう。円を持てば、損をするからです。ここからも大きな円安に向かいます。(注)ゼロ金利では、収益ゼロで経費のみが出る銀行は、成り立ちません。

(5)
政府が新規に発行する国債の利は3%に向かって上がります。毎年、政府は170兆円くらいの借り換えと新規発行があるので、政府の利払いは、ほぼ5年で、〔170兆円×5×3%=25.5兆円〕になります。

現在の利払いは10兆円程度であり、とても少ない(平均金利1%)。これが、利払いだけの要素で15.5兆円の財政赤字として増えます。毎年、数兆円ずつ増えていくのです。利払いのための国債の増加発行が必要になり、毎年の新規発行が70兆円くらいに上がります。

以上のような事態です。政府の債務がGDPの200%を超えて、しかも経済成長率が低い日本は、財政出動でインフレになって、金利が上がるという事態に対して耐久性がないのです。

実質経済成長が5%以上なら、税収も増えるので耐久性があります。しかし日本経済の実質成長は、高くても2%でしかない。普通の状態では1%です。クルーグマンは、金融の超緩和と同時に財政出動をしても低い、日本経済の成長率を無視しています

加えて、クルーグマンは、期待インフレ率、通貨、及び金利の関係をどう考えているのでしょう。物価が上がるようになって、人々の期待インフレが2%に上がって、市場の期待金利が0%のままということは、ありえないことだからです。
(注)物価連動債で見る現在の期待インフレ率は0.3%程度と低い。このため国債の金利が低い
ブレーク・イーブン・インフレ率(BEIの推移) – 日本相互証券

増発マネーが日銀当座預金に滞留する金融緩和とは違い、財政出動では、それが、毎年、10兆円規模に膨らめば、実質GDPを10兆円は増やすとともに、2%のインフレに向かうでしょう。

そして、インフレになれば、金融市場の期待金利は上がり、国債価格は下落します。以上のような事態は考慮の外に置き、クルーグマンは以下のように言っています。

But whatever the number is, you need to achieve that. Compare with that goal what the budget balance is over the next two or three years is of much less importance. ・・・ I would say, this is not a time to be worried about the fiscal balance.(7)

(インフレの数字がいくつであれ)、インフレ目標を達成せねばなりません。このインフレ目標の達成と比較するなら、次の2年、3年の財政収支がどうであるかの重要性は、はるかに低い。今は、財政のバランスを案じる時期ではありません。<翻訳(7)>

出典:Paul Krugman: Meeting with Japanese officials, 22/3/16 [PDF]

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