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決壊した1ドル110円の防波堤 「安倍政権後」の円安シナリオ消滅も=斎藤満

政府日銀が円高の防衛ラインとみていた1ドル110円の壁が、あっけなく崩れ去りました。この円高の2つの要因はここへきて強まりこそすれ、決して軽減されていません。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

消えた日銀緩和の「神通力」 1ドル100円割れは時間の問題に

安倍総理の不用意な発言が招いた円高の大波

政府日銀が円高の防衛ラインとみていた1ドル110円の壁が、あっけなく崩れ去りました。

その防波堤決壊の原因となったのが、安倍総理のWSJ紙への単独インタビューであっただけに、官邸も対応に苦慮しています。菅官房長官は7日の午後、1ドル109円が脅かされる段階で「円高は一方的」とけん制しましたが、円高の流れは止まりません。

安倍総理は同紙のインタビューで「通貨安競争は断固として避けなければならない」と発言したのですが、そのタイミングが悪すぎました。

ドル円が110円の壁を脅かそうとしている時期にこの発言が報じられたため、円高でも当局の為替介入はない、円高を容認、ととられた面があり、円高を自ら促す結果となってしまいました。

2つの円高要因

ドル円は昨年6月の1ドル125円台をピークに、その後徐々に円安の修正が進んでいます。

その裏には、米国がもはやドル高を許容できなくなり、日欧にも通貨安策をけん制し始めたこと、そして日本株買い・ヘッジの円売りをセットで行ってきた外人投資家が、アベノミクスに疑問を持ち始め、このセット・ディールの巻き戻しを始めたことがあります。

この2つの要因はここへきて強まりこそすれ、決して軽減されていません。米国のオバマ大統領は、G7、G20など国際会議の場で「ドル高は米国経済に負担」と言っていますが、原油価格が下がり過ぎて産油国としての米国にも負担となっていることが、余計原油安要因となるドル高を抑えたい状況になっています。

最近の米国成長率の低下も、ドル高と原油価格の下落によるエネルギー関連の設備投資減少による面が大きいと認識しています。NY連銀の経済モデルでは、ドルが10%上昇すると、GDPは1年目に0.4%、2年目にもさらに0.4%低下する、との結果が出ています。ドルは足元でこそやや低下したものの、13年後半以降、約20%も上昇していました。

米国に100%服従したい安倍政権は、米国のドル高を避けたい意向は十分認識しています。それが今回のインタビューに表れたわけですが、もう1つの、アベノミクスにたいする期待がはげ落ちてきたのも事実です。異次元緩和からマイナス金利付きQQEへと金融緩和を総動員しても、景気、インフレは高まらず、むしろじり貧であることが広く認識されています。

Next: 外国人に見限られたアベノミクス/100円割れは時間の問題に

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