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『あの日』を読んで感じた小保方晴子さんの「無実」=吉田繁治

STAP細胞事件から2年が経ちました。ES細胞の混入だったという理研の検証(14年12月19日発表)により、決着がついたかと思っていました。

(注)ES細胞(胚性幹細胞)は、臓器に分化する前の、初期の受精卵から取りだされたものです。理論的には、あらゆる臓器に分化できる性能を備えるとされます。

今年の1月29日、講談社が極秘にしていたプロジェクトで、疑惑の中心にある小保方晴子氏は書籍『あの日』を出版しています。出た直後、どうしようかと思っていたのですが、1年前に「STAP細胞問題の真相(Vol.319~322)」を書いたこともあって、やはり気になり、一昨日から、電子書籍版を読みました。

ゴーストライターは使っていないと推測されます。これはどうして、なかなかの筆力、文章力のものでした。読みながら、再び、いろんな疑問がわいてきたので、書くことにしました。

結論から先に言えば、「小保方さんが、ES細胞混入の犯人である可能性」はとても少ない。あり得ないくらい確率が低いということです。(『ビジネス知識源プレミアム(2016年3月9日号)』吉田繁治)

小保方さんがES細胞混入の「犯人」である確率は限りなく低い

3つの予備知識

動物は、たったひとつの卵細胞が精子と結合して受精し、細胞分裂を繰り返して作られています。一個の卵と精子の結合から、あらゆる臓器が作られます。生命は、神による精妙な設計だと感じるくらいすごい。

初期の受精卵が備えている、全部の人体組織と臓器に分化する能力が、「多能性(または全能性)」と呼ばれるものです。

【(1)受精卵から作られたES細胞】

ES細胞(胚性幹細胞)は、この初期の受精卵から取りだされ、培養すればあらゆる臓器になっていく細胞塊です。1998年に人間のES細胞の作製が成功しています。

ES細胞の問題は、移植された生体で起こる拒絶反応とガン化です。自殺した理研の笹井芳樹博士は、ES細胞で、目的の組織や臓器を作るコントロール法における世界的な権威でした。

【(2)分化した組織・臓器の細胞に、遺伝子を入れて作られたiPS細胞】

京都大学の山中伸弥教授が作ったiPS細胞(induced pluripotent stem cell、人工多能性幹細胞)は、成長して組織・臓器に分化してしまった細胞の核に、レトロウイルスベクターといわれるリボ核酸を使って、特定の遺伝子を送りこむことで、ES細胞とおなじように、いろいろな臓器になる多能性を獲得したものです。

マウスでは2006年に、人間では2007年に成功しています。神経、心筋、血液などのさまざまな組織や臓器を再生する医療に使われる可能性があるものです。

眼球の奥にある網膜色素上皮細胞を、加齢性の黄斑の患者に移植する治療は2014年に行われていて、経過は良好です。人体に合う大きな臓器の作成は、まだ研究途上です。記憶する脳の再生などはどうでしょうか。

iPS細胞は、自分の細胞から作られるので、他人の受精卵を使うES細胞のような拒絶反応がありません。その点が画期的です。

【(3)外的刺激だけで作るSTAP細胞】

次が問題のSTAP細胞です。Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency Cellの略で、刺激惹起性の多能性獲得細胞です。
(注)細胞への命名は、笹井芳樹氏が行っています

細胞に機械的、化学的な刺激を与えることによって、分化する前の細胞の多能性を獲得するというものです。

多能性の獲得を、「初期化」と呼んでいます。受精卵のように分化前の状態に戻るからです。コンピュータで初期化と言うと、ハードディスクの情報を全部消すことです。

組織や臓器に分化してしまった細胞は、多能性を失っています。皮膚になった細胞は分裂しても、同じ皮膚にしかならない。

しかし成長して分化した後の細胞に、小保方さんが「ちょっとしたレシピ」と言っていた方法で刺激を加えると、受精卵が初期にもっていた多能性を獲得するという。

つまり「細胞の初期化」が起こると報告されていました。iPS細胞のように遺伝子を入れる必要がないので、画期的ともされたのです。

植物では、挿し木の方法で、多能性を発揮するものが多い。イモリも、怪我(つまり大きな刺激)で失った手や足が、再生します。

哺乳類(マウス)でも、弱酸性の液に浸して、ある機械的な刺激を加えると、多能性を獲得するとしたのが、小保方さんが行ったSTAP細胞の実験でした。マウスでできれば、人間にも応用できることが多いでしょう。

Next: STAP現象の検証実験は、STAP細胞の存在を否定するものではなかった

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