物価目標が景気低迷の一因
デフレ脱却を目指したアベノミクスの柱となったのが、日銀と一体となって進めた2%のインフレ率を目指した「物価安定目標」で、日銀は伝統的な手段を超えて「異次元」の金融緩和を進めました。政策金利はゼロを通り越してマイナスまで下げ、国債や株式投信、不動産のREITなどを大量に買い、流動性を大量供給しました。
その結果、2014年4月の消費税引き上げでいったん水を差されましたが、それでも為替は円高が修正され、ドル円は一時125円まで円安になりました。
そして株価も日経平均が8,000円台から短期間で2万円を回復し、2018年には2万4,000円台をつけ、「ハプル後最高値」を記録しました。
この円安・株高がアベノミクスの最大の成果と見られるようになりました。
この間、企業の利益も過去最高を更新し、企業の株式時価総額も東証一部だけでGDPを一時上回り、企業にとっても、株を保有する資産家にも利益となりました。企業にとっては、日銀の異次元緩和だけでなく、法人税減税や雇用の流動化、つまり非正規雇用拡大を後押ししてもらい、固定費としての人件費を変動費化し、人件費全体を抑制することができたことも、利益拡大に貢献しました。
アベノミクスは企業や資産家には良い政策であり、市場もこれを歓迎しました。
だからこそ、安倍総理の退陣表明を受けて、日経平均株価は一時700円以上も下げました。アベノミクスが終わるのではとの懸念が出たためです。
犠牲になったのは個人
ところが、市場や企業の評価とは裏腹に、アベノミクスが実施された7年8か月の間、GDPは定義を変え、研究開発費などを加えたことで水準が20兆円余りかさ上げされたことを除けば、ほとんど成長しなかったことになります。
内閣府の「景気動向指数」でも、7年8か月のうち、半分近くで指数が低下を見せ、その間、実体的には「景気後退」の状況にあったと見られます。
企業が潤い、株価が上昇したのに、なぜ成長が進まず、景気も停滞が長く続いたのでしょうか?
それはアベノミクスという政策が、個人の犠牲のもとに企業が潤うように設計されたもので、企業のプラス面よりも個人が犠牲を強いられたマイナス面がより大きかったためです。
実際、政策自体が企業に利する反面、個人には負担が大きい政策です。
まず財政は、法人税の実質減税を進めた半面、個人には2度も消費税を引き上げ、社会保険料負担も高まりました。
そこへ日銀の異次元緩和も個人には負担となりました。現在、個人の金融資産は1880兆円あまりですが、ゼロ金利政策が続いているために、利息収入はほぼゼロです。90年代前半には利息収入が年間30兆円以上あって、所得の下支えをしていましたが、この10年以上、金利収入が消滅しました。
しかも、円安にしたので輸入品が割高となり、家計を圧迫し、海外旅行も高くつくようになりました。円安で喜んだのは輸出企業や日本に来る外国人旅行者と、彼らのインバウンド消費に期待した観光地の業者でした。
それだけでなく、マイナス金利によって金融機関の収益が悪化したため、銀行の店舗、ATMが減り、利便性が低下したうえ、預金者への手数料負担が増え、通帳発行にも手数料が取られる方向にあります。