英国がEUから離脱することのデメリットとメリット
ここで、英国がEUから離脱することのデメリットとメリットを整理しておこう。
英国にとってのデメリット:
(1)
対EU貿易のコストが上昇する。2014年時点で、EUは英国の輸出の44.6%、輸入の53.1%と、対外貿易の約半分を占める。離脱により、相互撤廃されている関税が課せられると、輸出関税で競争力低下し、輸入関税で原材料のコスト増となる。新たな貿易協定締結には多大な時間とコストがかかる。
(2)
金融、保険などのサービス面でも、相互の企業に新に1つ1つ許認可や免許が必要になると、時間とコスト面での負担が大きく、競争力が低下する。
(3)
英国への対内直接投資残高は、ドイツへの約1.5倍、フランスへの約2倍、日本への10倍以上もある。これが1)、2)の要因で、英国から他の欧州諸国や欧州外へビジネスを移転させる可能性が出てくる。
(4)
スコットランドの独立問題が再燃する可能性がある。
英国にとってのメリット:
(1)
今の欧州連合は、発足時の理念とはかけ離れている。米ソ冷戦は終結し、旧ソ連構成国までが欧州連合に加わっている。英国は離脱によって欧州大陸の難民受け入れ問題から距離を置くことができ、テロ対策も幾分容易になる。
(2)
EU、ユーロ圏が抱えるギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの経済問題、負担増からも距離を置くことができる。英国は毎週3.5億ポンド、年間で約200億ポンドをEUに拠出金として支払っている。この資金を国内の経済対策、社会保障、インフラ整備、国境警備の強化などに振り分けることができる。
(3)
この夏、EUは米国、カナダからの観光客やビジネス出張者に入国ビザ申請を要求する計画だ。決定すれば、例え、短期滞在でも例外なくビザが要求される。これは、米国がEU加盟国であるポーランド、クロアチア、キプロス、ブルガリア、ルーマニアからの入国者にビザを要求し、カナダはルーマニア人とブルガリア人に要求しているための対抗措置だ。原案でも英国とアイルランドは、米加人への入国ビザ申請要求には従わない予定だ。ここで英国が離脱すれば、米加につくか、EUつくかなどの無用な軋轢から逃れることができる。
EUが英国に離れられることのメリットとデメリットは?
一方、EUが英国に離れられることのデメリットとメリットを考えてみよう。
EUにとってのデメリット:
(1)
EUにとっても重要な貿易のパートナー、金融の拠点を失うことになる。
(2)
ドイツを牽制できる存在がなくなり、ユーロ圏の小国はこれまで以上に事実上の属国化する。これは、短期的にはドイツにプラスだが、中長期的には負担増や、不安定につながる可能性が高い。
(3)
スペインのカタルーニャ、バスク地方を含む各地で、独立、離脱運動が盛り上がる可能性がある。
EUにとってのメリット:
(1)
ビザ問題が象徴しているように、EUにいながら、ユーロ圏ではない大国がいなくなることで、ドイツ、フランスなどがより主導権を取りやすくなる。
このように、EUからの離脱で英国が失うものは大きい。しかし、経済的なパートナーは、日本や米国、カナダ、中国、ロシアなど、事実上、世界中に求めることができ、中長期的には十二分に取り返せる可能性がある。
一方のEUにとっては、失くすだけで、得るものが少ないように思える。痛手を受けるのは、むしろEUの方ではないか。
Next: 国民投票前後のポンド、ユーロ相場はこう動く