4. 「ビットコインは怪しい」は本当か?
ビットコインの基本的な構造はお分りいただけたのではないかと思います。ここまでお読みいただいた方が、次に抱く疑問とは「なぜ、仮想通貨は度々事故が起こっているのか?」ということだと思います。
実は、それらの事故はビットコインが持つ安全性とは関係のないところで起こっているのです。
【ビットコインが「通貨になった」瞬間】
ところで、ビットコインは最初から通貨として機能していたわけではありません。2009年1月に初めて発行された時は、ただのゲームコインと大差ない代物に過ぎませんでした。
初期のビットコインは送金テストを行ったり、実験し改良するといったことを繰り返しながら、マニアの間に徐々に広まっていったものと考えられます。ある時、エンジニアが暗号理論のメーリングリストに「誰か1万ビットコインとピザを交換しない?」と面白半分に書き込み、それに応じた人がいたことから、やがて本物の通貨として機能するようになったというのは、有名な話です。
ビットコインが、一気に値上がりするきっかけとなったのは、2013年に起こったキプロスの金融危機でした。その後も、ギリシャの取り付け騒ぎや中国の人民元切り下げ、インドの高額紙幣廃止など、有事の際には必ず値上がりしています。現在、ビットコインの時価総額は1兆円を超え、人々が資産分散を考える際の選択肢のひとつとして、検討されるまでになっています。
【マウントゴックスが与えた影響】
日本人が「仮想通貨」という概念を初めて知ったのは、やはり「マウントゴックス事件」からになるでしょう。不運なことに、この事件によって、日本人の間ではすっかり「仮想通貨=怪しい」というイメージが定着してしまいました。
マウントゴックス(Mt.Gox)とは、ビットコインの私設取引所のことです。もともとは、カードゲームの稀少カードを売買する取引所として始まりましたが、後にビットコイン取引が儲かると見て、業態転換をしています。その目論見が当たり、業態転換後に売上は急上昇。2013年には世界のビットコイン取引の7割を扱うまでになっていました。
2014年2月末、それまでも支払い遅延が起こっていたマウントゴックスは全取引を中止し、数時間語にはサイトが閉鎖されます。記者会見ではフランス人の社長が、「システムの脆弱性を突かれてビットコインが流出した」と謝罪しましたが、そこから「システムの脆弱性=ビットコインの通貨としての安全性の問題」と曲解されました。
マスコミも、多くの識者も「中央管理システムのないビットコインが、通貨としての機能を保てるわけがない」と発言しました。後に、この事件は社長の自作自演だったことが判明しますが、それでも「ビットコイン=怪しい」のイメージだけは、人々の間に残ってしまったのです。
米ドルなどを思い浮かべてみていただければお分かりのように、通貨であるビットコインは、そのままでは使うことができません。たとえば日本人が持っていないビットコインを使いたい場合、まずは日本円を支払って、ビットコインを購入(両替)しなければなりません。マウントゴックスとはこの、ビットコインを購入するための両替所だったわけです。
両替所とは、ビットコインを運営する側ではなく、いわば利用する側です。彼らにとって、ビットコインとはあくまでも「売り物」に過ぎません。「システムが脆弱」というのは、「お店」である取引所の脆弱性のことであって、ビットコインそのものの脆弱性ではないのです。
去年(2016年)は、6月に「第2の仮想通貨」と期待されているイーサリアムと、8月にビットコインの香港取引所から、大規模な資金流出事件が起きています。やはり、どちらも仮想通貨のシステム自体ではなく、両替所や資金集めのために組んだファンドのシステムからハッカーに侵入されています。
このように、仮想通貨の事故は、通貨そのものよりも、むしろその周りで起こっているという事実を、忘れないようにしてください。