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「小池一人で夜も眠れず」安倍総理が民進党“消滅”でも高笑いできぬワケ=近藤駿介

小池都知事率いる「希望の党」という「黒船」が突然現れ、安倍自民党圧勝のシナリオが修正を迫られている。だが、これは有権者にとって必ずしも悪くない話だ。(近藤駿介)

プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任し、教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える切り口を得意としている。

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※本記事の続編を公開しました、ぜひ併せてご覧ください(2017年9月30日)
テレビが伝えぬ「小池劇場」本当のみどころと安倍総理最大の不安=近藤駿介

希望の党にやられ放題の安倍総理が見る、まともな争点という悪夢

小池“黒船”百合子、来航

一強の眠りを覚ます衆院選、小池一人で夜も眠れず

といったところだろうか。

安倍総理が衆議院の解散を発表する予定になっていた25日に、突然、小池都知事が「希望の党」の立ち上げを発表したことで、永田町は浮足立ち、メディアも大騒ぎになっている。

国会が閉会中で森友・加計問題がメディアで取り上げられなかったことに加え、北朝鮮の軍事的脅威が高まったこともあり、一時危険水域まで急落していた安倍内閣の支持率も回復傾向を見せていた。何事もなければ、10月22日に行われる総選挙では自民党は圧勝できた。少なくとも現状の野党相手なら負けることない戦いであったはずだ。

安倍総理が会見で、総選挙の争点とは言えない理由を並びたてて臨時国会の冒頭解散に打って出たのも、当然そうした目算があってのこと。

しかし、小池都知事率いる「希望の党」という「黒船」が突然現れたことで、安倍自民党圧勝というシナリオは修正を迫られることになった。それは、安倍政権が描いていたシナリオが、安倍政権が強いのではなく、野党が弱いという構図を前提としたものだったからだ。

武器になる「大義名分」がない安倍総理

子育て世代への投資を拡充するため、これまでお約束していた消費税の使い道を見直すことを、本日、決断しました。国民の皆様とのお約束を変更し、国民生活に関わる重い決断を行う以上、速やかに国民の信を問わねばならない。そう決心いたしました。28日に、衆議院を解散いたします」

野党が弱いことを前提にした解散だったことは、25日に衆議院を解散することを正式に発表した記者会見で、安倍総理が国民が納得できるような大義名分を準備していなかったところに表れている。

小池都知事は安倍総理の会見予定時間の直前に設定した「希望の党」立ち上げ発表記者会見で、「大義なき解散だ。国民も疑問に思っている」と強く批判することで、安倍総理が示す解散理由が「大義なきもの」であることをより強く印象付けることに成功したといえる。

安倍総理が解散の理由として挙げたのが、「消費税の使い道を、財政再建から幼児教育に振り替える」という前原民主党代表の「All to All(みんながみんなのために)」とほぼ同じものだったのは、戦う相手が民進党、もしくは民進党を中心とした野党連合であることを前提にしていたことの表れといえる。

安倍総理は会見の中で、「消費税の使い道」の一部を「借金返済」から「子育て世代への投資拡充」に変更することで「2020年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成」が困難になることを「国民の皆様とのお約束を変更し、国民生活に関わる重い決断」であり、「速やかに国民の信を問うべき問題」だと主張した。

国民のなかで「プライマリーバランス」を正確に理解し、そのうえで「プライマリーバランス黒字化目標」を国民と政府の約束事だと意識している人がどのくらいいるのかという素朴な疑問はひとまず横に置くとしても、この総理の主張は幾つかの点で辻褄の合わないものだ。

浮かび上がる解散理由の「矛盾点」

安倍総理が主張する通り、「消費税の使い道を、財政再建から幼児教育に振り替える」ことで、国民と約束した「2020年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成」を果たせないことが極めて大きな問題なのであれば、まずそれは国民の代表が集う国会で議論すべき問題である。

そのうえで、国会が「消費税の使い道を、財政再建から幼児教育に振り替える」ことなどせずに「2020年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成」を目指せという判断を下し、政府の予算案を否決したのであれば、それは解散に打って出る正当な理由となる。

したがって、今回、安倍総理が決めた臨時国会での冒頭解散というのは、国会の意思を確認するという本来の手続きを省く乱暴なものであり、批判されても仕方のないものである。

さらに、安倍総理は2016年11月に、消費税率10%への引き上げ時期を2017年4月から19年10月に再延期する税制改正関連法を成立させている。もし、「2020年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成」が、前回の2014年12月の総選挙における国民との重大な約束であったのであれば、税制改正関連法を成立させる前に解散をして国民に信を問うべきだったことになる。

それに加えて、安倍政権は2017年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の中で、「2020年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成」に関する表現を微妙に変更し、事実上この目標が達成できないことを暗に認めた格好になっている。

このような事実は、解散の理由が「消費税の使い道を、財政再建から幼児教育に振り替える」ことで「2020年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成」という国民との約束を果たせなくなったというものではないことを物語っている。

安倍総理が本当に「2020年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成」が不可能になったことを「国民に信を問うべき問題」だと考えていたのであれば、もっと前に解散しておかなければおかしいからだ。

つまり、25日に安倍総理が発表した冒頭解散は、議会制民主主義の趣旨に反したものであるだけでなく、総理のあげた「2020年度のプライマリーバランス黒字化目標の達成」が難しくなったという説明自体に疑念を抱かせる内容だった。

Next: 小池氏の妙手。自民党はなぜ「希望の党」に狼狽するのか?

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