先週の日本株急伸の背景要因は、もちろん日本の政治情勢でしょう。特に9/3(金)は、前場引け直後に「菅首相が、自民党総裁選への出馬断念を、自民党の臨時役員会で表明した」との報道が流れ、それにより株価上昇に一段と弾みがつきました。ただ、日本株が強含み推移していたのは、その報道より前からだ、という点も、注目すべきだと考えます。(『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』)
※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2021年9月5日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。市場急変時には号外の配信もあります。
過ぎし花~先週(8/30~9/3)の世界経済・市場を振り返って
<日本の政治情勢は、日本株の売り要因にはならないと予想してはいたが、想定以上の株価の急伸となった>
先週は、日本株の上昇が目立ちました。その要因としては、国内政治情勢の変化が挙げられていますが、菅首相が総裁選の出馬辞退を表明する前から株高が進んでいた点も注目されます。
当メールマガジンでは、日本の政治情勢は日本株の売り要因とは考えにくい、とは述べていましたが、一方で「最終的に誰が首相になるかわからない」という不透明さは、買い要因にもなりにくいと見込んでいました。そのため、先週の日本株の上振れの幅と速度は、当方の想定外であって、見通しを誤りました。
ただ、なぜ先週日本株が急伸したのか、その背景等を考察し、そこから先行きを展望すると、今週月、火辺りに株価が上昇を持続することはあっても、このまま一直線に株価が上昇し続けるとは予想していません。むしろ、いったんまた持ち合い気味の展開に戻る(ただし当初想定していたよりは、持ち合いの水準は高めになる)と見込みます。また、年末辺りの国内株価の到着点については、予想を修正する必要はないだろうと考えます。
<詳細>
先週は、日本株が群を抜いて大きく上昇しました。後で述べるように、世界の主要な株価指数騰落率ランキングでは、日経平均とTOPIXがワンツーフィニッシュでした。
日経平均は一気に2万9,000円台乗せとなりました。さらにTOPIXは、これまでの今年の年初来高値(3/19、ザラ場高値が2,013.71、終値ベースでは2,012.21)を上抜け、週末(9/3 金)は2,015.45で引けました。この週末終値は、1991年4月17日の2,028.82以来、30年強ぶりの水準です。
当メールマガジンでは、これからしばらくの日本株の動きは持ち合いに近いだろう、と述べてきましたので、これほどの日本株の急伸は、上昇のタイミングも上昇速度も、当方の想定外でした。見通しを誤り、申し訳ありません。
ただ、当メールマガジンでは、年末に向けては株価は上がる、との予想を示していました。読者の方が、そうした当方の「株価は上昇方向の大きな流れだ」との予想を踏まえてくださり、日本株の現物や日本株ファンドを、日経平均が下落して最近一時2万7,000円割れした局面では売らず、そのまま継続保有していただいているのであれば、うれしく思います。
さて、先週の日本株急伸の背景要因は、もちろん日本の政治情勢でしょう。特に9/3(金)は、前場引け直後に「菅首相が、自民党総裁選への出馬断念を、自民党の臨時役員会で表明した」との報道が流れ、それにより株価上昇に一段と弾みがつきました。ただ、日本株が強含み推移していたのは、その報道より前からだ、という点も、注目すべきだと考えます。
足元の日本の政治情勢が日本株に与える影響については、特に買い材料でも売り材料でもない、と、当メールマガジンでは述べてきました。それは、最近の日本株が、菅首相の経済政策などで支えられた状態ではないため、菅氏から他の人に首相が交代するとしても、特に日本株の売り材料ではない、一方、自民党総裁選挙と衆議院選挙の結果などによって誰が首相になるかが決まっていない、という事態は不透明感が残り、特に日本株の買い材料でもない、という見解でした。
そうした見通しとは違って、実際には先週株価が急伸したことの様々な背景を、下記で述べます。また、それを踏まえて、先行きの日本株についての当方の見通しを、変えるのか変えないのかも、解説します。
なお、足元で、先週の日本株の市況動向や今後の株価見通しについて、ご質問をかなりいただいていますので、下記では質疑応答のような形式で、述べていきます。
<(1)日本の政治情勢について、何が日本株の買い材料だと投資家の間で解釈されたのですか?>
菅首相が自民党総裁選への出馬を考えていた時点では、将来の首相が菅首相の再選か、それともほかの誰になるかは、まったく決定してはいませんでした。これが菅首相再選の可能性が出馬辞退で消えたため、その分だけは、菅首相の辞退表明前と比べれば、ほ~んのちょっとだけ不透明さが薄らいだ、という考え方はできなくはないでしょう(ただし、菅首相の勇退で、出馬するつもりがなかった人が出馬を決意したりしていますから、こうした考え方は筆者自身は的確ではないと思います)。
実際、筆者から菅首相の辞退表明を知らせた在米ヘッジファンドからは、「big development」(大きな事態の進展)だ、との返事が返ってきました。政治を巡る状況が進んだ、と考えた投資家はいたのでしょう。
ただ、筆者がやり取りを行なった他の多くの「人間の」投資家たちは(なぜ「人間の」という言い方をしているかは、後で述べます)「まだ不透明さは大きく残っているよね」と、慎重です(もちろん、筆者がすべての海外投資家と話しているわけではないので、大いに日本株を買うべきだ、と考えている投資家もいるかもしれません)。
また、総裁選挙から総選挙にかけて、経済対策が打ち出されるとの期待があり、それが先週の菅首相の出馬辞退より前から、株価上昇材料だと考えられていた、という観測もあります。ただ、誰が総裁・総理になったとしても、目覚ましく景気を押し上げて株価を上げる、という政策は、簡単には打ち出しにくいでしょう。
加えて、過去は総選挙のタイミングに向けて株価が上がったことが多いので、そのジンクスで買いを入れている向きがいる、との声もあります。ただ、それは単なるジンクスです。さらに、過去に選挙前に株価が上がったというのは、最近のように経済対策の効果が薄れてしまった時期ではなく、経済対策が株価上昇効果を生じていた「時代」のことも含まれています。
したがって、先週の株価上昇の背景に、経済対策やジンクスを期待した面が要因として大きいとすると、それは先行きかえって危ういです。
あとは、仮に自民党の新総裁が国民に菅首相以上に支持されれば、総選挙で現与党が失う議席が少なくて済むのではないか、との期待はあるでしょう。ただ、総裁選の結果がそうなるかは、まだわかりません。