fbpx

だからガソリン価格は下がらない。ウクライナ問題は経済制裁「金融市場への原爆投下」で終局する=斎藤満

問題その1:天然ガス供給を補填できるか

1つが天然ガスの問題です。

現在、ロシアは欧州の天然ガス需要の1/3を供給していますが、さらにノルドストリーム2というパイプラインを設け、ドイツに天然ガスを供給する体制を進めています。欧米の出方によっては、ロシアは欧州向けのガス供給を止める可能性があり、一方で欧州はこのパイプライン建設を止める可能性があります。

ロシアにとっても重要な販路を自ら断つわけで、経済的な打撃になりますが、欧州はまさに「油断」となってエネルギー制約が強まります。

これはあらかじめ想定できる問題でもあり、バイデン大統領は欧州への天然ガス供給策を検討しています。中東産油国、ガス産出国に欧州への供給を依頼していますが、まだ確証は得ていないようです。最悪の場合は米国産のガスを供給する手はありますが、米国内での需要増、エネルギー価格高騰がインフレ圧力を高めている中で、米国産のガスを欧州に回すことは容易でありません。

ロシアも大きな販路を失うので、その代替市場を見つけないと、エネルギー生産、輸出の減少が経済をさらに疲弊させます。西側ではロシアからのガス供給の減少により、価格高騰となり、天然ガス問題がユーラシアでの景気悪化と物価高が共存するスタグフレーションをもたらし、米国のインフレ長期化要因となります。

これを先取りするように、ニューヨーク原油先物(WTI)は90ドル手前まで上昇し、日本のガソリン価格もレギュラーが平均でリッター170円を超えたために、政府補助金の発動となりましたが、ガソリン価格の下げにまで至っていません。資源国との紛争が、世界の資源価格高、インフレを助長し、金融引き締めへの誘因となっています。

問題その2:金融市場への原爆投下

もう1つが、金融市場での「原爆」ともなりかねない劇薬を、米英が検討していることです。それは、ロシアがウクライナに軍事侵攻した場合、ロシアの金融機関を銀行決済システム(SWIFT)から排除する案です。

ロシアの金融機関自身か、その取引先(政府機関も含む)が何らかの形でドル決済が必要な場合、この銀行決済システム(SWIFT)を利用して行います。これは米国の管理下に置かれています。米国政府がロシアの金融機関に対して、この決済システムから排除すると、ロシアの金融機関はドルという通貨の「血流」が止まってしまいます。

ロシア経済といえども、すべてがルーブル決済ではなく、なにがしかの形でドル資金による取引と関わっていますが、そのドルが取れなくなれば、ロシア経済は動脈硬化から心不全を起こして死に至るリスクもあります。それだけ、これは劇薬で、軽々に発動できるものではありません。

もっとも、武器市場で原爆はその破壊力の強さから「使えない兵器」となっていて、互いに抑止力としての意味以上の利用はできない状況にあります。

しかし、ドル決済からの排除は、実務を知る人間からすれば、「金融市場の原爆」に匹敵する破壊力ですが、一般にはわかりにくく、必ずしも「使えない兵器」ではありません。それだけに発動された場合の混乱は大きくなります。

Next: 日本企業にも返り血。中国向けの「武器」を米国がロシアに使う可能性

1 2 3
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー