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「森のたまご」イセ食品が破綻した当然の理由。取沙汰される「スーパー玉出」の今後と“卵でピカソを買った男”元会長によるコレクションの行方

鶏卵最大手のイセ食品とそのグループ会社の2社が会社更生手続きに入ったと報じられ、消費者らの間で大きな衝撃が走っている。

「森のたまご」などのブランド名で鶏卵を全国のスーパーなどに卸していたイセ食品。1980年代には米国にも進出し、同国でトップクラスの事業規模となっていたが、近年は過剰債務を抱えて資金繰りが悪化。2021年6月末には、長年にわたりイセ食品の代表取締役を務めてきた創業家出身の伊勢彦信前会長が退任しているが、これも取引金融機関などから経営責任を問われたことが原因とされている。

帝国データバンクによると2社合計の負債総額は453億円。2社の株主と債権者が11日、東京地裁に会社更生法の適用を申請し、同日に受理されたとのことだが、別の記事によるとその申立人は債権者のあおぞら銀行と、同社の株主で先述の伊勢彦信前会長の子息である伊勢俊太郎氏とのことである。

寡占化・巨大化の道へと進んでいった鶏卵業界

国内7か所で鶏卵のパッキング工場を構えるなど、日本全国に生産拠点を構えていたイセ食品。「森のたまご」は、他と比べると若干価格はお高めなものの、卵かけご飯など生で食べる機会が多いという方など、少々値段は張っても新鮮で美味しいものを……という需要にマッチした商品として、多くのスーパーでよく並んでいただけに、その生産会社の会社更生手続き入りという報道に驚く人も多かったようだ。

「森のたまご」好きからは、これで同製品が買えなくなってしまうのでは……といった危惧も広がっている今回の件だが、報道によればイセ食品と金融機関との間には、当面必要な資金の融資を受けるための契約を締結しているといい、今後の商品供給などに影響はない模様である。

鶏卵といえば、数十年間にわたり値上がりせず一定の価格を保ち続けていることから“物価の優等生”とも呼ばれる。しかし、その価格維持の裏側で養鶏・鶏卵業界で起こっていたのが、一部業者による寡占化・巨大化。ニワトリの飼料代をはじめとした生産費にくわえ流通コストなどが年々増大するなか、業界全体としては大規模な施設での効率的な生産という流れへと向かっていったのだ。

そのいっぽうで、生産の効率化が極限まで進むなかで懸案事項とされていたのが、国際的な飼育環境の新スタンダードとされる“アニマルウェルフェア(動物福祉)”。従来の養鶏場などにおける環境は、家畜へのストレスがかかりすぎるということで、その改善が世界的に求められているというものだが、これが養鶏・鶏卵業界にとってはかなり頭が痛い問題なのだ。

このことが遠因となり起こった出来事として記憶に新しいのが、数年前に取沙汰されたいわゆる「鶏卵汚職事件」。農林水産大臣を務めていた吉川貴盛元代議士が、大手鶏卵生産会社の元代表から複数回にわたって計1,800万円に上る賄賂を受け取っていたという事件だが、それもアニマルウェルフェアの考え方をもとにした飼育方法の導入を、国が政策として打ち出さないようにという陳情と並行してのものだったといい、元代表は「業界のためだった」と後に供述している。

このように、業界全体としてもこれまでの経営の方向性を大きく変えることが求められていたいっぽうで、従来から続いていた飼料や燃料など生産コストの増大も、コロナ禍の影響でさらに進行。さらには鶏卵相場も下落が続いていたとあって、寡占化・巨大化の歴史をたどった同業界を象徴する存在だったイセ食品をもってしても、ついに持ちこたえることができなくなったということのようだ。

元会長によるアートコレクションの動向は?

最終的には資金繰りにも大いに行き詰まる状態となっていたというイセ食品だが、ただ数年前までは国内における鶏卵業界のトップカンパニーとして、イケイケどんどんの拡大路線を続けていたようだ。

その一例として、当時大いに話題となったのが、大阪の名物スーパー「玉出」の買収劇だ。大阪の主に下町エリアに数多く立地し、格安を通り越した激安価格で地域住民からの支持を得ている関西では知名度の高いチェーンだが、それを2018年に買収したのが、当時のイセ食品会長だった先述の伊勢彦信氏が率いる不動産会社だったのだ。

イセ食品の会社更生手続き入りの報道が今回流れたことで、SNS上では「スーパー玉出はどうなるんだ?」との声も多くあがっていたが、どうやら買収当時からその不動産会社とイセ食品の間には経営上の関係はない模様。スーパー玉出側も今回の件を受け、改めて「イセ食品株式会社及びその前会長である伊勢彦信氏と資本、貸借関係、役員構成上も一切の関わりはなく、創業以来、両者が弊社の株主や役員となった事実もありません」というリリースを出している。

いっぽうでその伊勢彦信氏だが、実業界のみならず芸術の分野おいても有数のアートコレクターとして知られた存在で、国内の美術品オークション大手である「シンワオークション」も保有しているとのこと。

それだけに今回の件は、日本内外の美術動向を紹介する雑誌『美術手帖』のウェブサイトにおいても報じられていて、それによると氏は日本画、洋画、陶磁器などを幅広く所有するなかで、とくに中国陶磁のコレクションは著名とのこと。またコレクションの中には、ピカソの絵画などもあったようで、その界隈では“卵でピカソを買った男”とも呼ばれていたようだ。

ただ記事には、今回の会社更生手続き入りにより、氏の所有するコレクションの今後の動向が懸念される……との一文も。卵1パックの値段が気になる全国の消費者やスーパー玉出を利用する大阪の下町の方々といった庶民層から、高額の絵画をやり取りするコレクターの方まで、実に幅広い層が今回の件の動向を何かと案ずる展開となっている。

Next: 「アレやらなきゃ今頃まだ無事だったんじゃないか…」

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