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なぜロシアは民間施設まで攻撃するのか?米CIA系シンクタンクが備える「4つのシナリオ」から見えたプーチンの狙いと早期“和平合意”の可能性=高島康司

CIA系シンクタンクの4つのシナリオ

そのようなとき、CIA系シンクタンクの「レイン(旧ストラトフォー)」がロシアの狙いを詳しく分析したレポートを掲載した。ちなみに「レイン(旧ストラトフォー)」は、CIAの元分析官のジョージ・フリードマンが1997年に設立したシンクタンクだ。いまでもメインのクライアントはCIAである。実質的にここは、CIAの民間の出先機関だともいわれている。

ここの有料サイトに掲載されたレポート「ロシアによるウクライナ侵攻がもたらす可能性のある結果」は、ロシアの目的と戦略をうまくまとめている。

それによると、ロシアがウクライナで取り得る行動にはいくつかの可能性があり、それぞれにモスクワにとっての長所と短所があるという。それは次の4つだ。

<シナリオ1:親ロシアの傀儡政権でウクライナを支配>

これは親ロ政権を樹立し、ロシア軍がウクライナ全土を占拠するシナリオだ。

このシナリオでは、ロシアはキエフを武力で占領し、親ロシア派の政治勢力(例えば、2014年に国外に逃亡した勢力の一部)を政権に就け、彼らはウクライナの憲法を改正して同国の中立または非武装を確保する。この新政府はモスクワと協定を結び、ロシアがウクライナに軍事基地を持つ権利を確保し、治安を維持することになる。

憲法改正には、国内におけるロシア語の地位の保証や、モスクワの影響を受けた地方政府により多くの権力を与えるためのウクライナの連邦化も含まれる。このシナリオでは、ウクライナ西部はキエフの新政府を承認しない可能性が高く、国民の抵抗が続き、分離独立運動が誘発される。

長所:このシナリオは、ロシアの最も野心的な目標である「非軍事化と中立化」を達成する可能性が最も高い。親モスクワ政権の樹立と憲法改正が相まって、ウクライナが長期的に欧州およびNATOにさらに統合されることを妨げることができる。

短所:この場合、ロシアはウクライナに恒久的な軍事的プレゼンスを維持し、国際社会から承認されない政府に資金を提供しなければならなくなるため、長期的には最もコストがかかると考えられる。 また、特にウクライナ西部の地域では、暴力的な民族主義者の抵抗運動が起こる可能性が高い。さらに、このシナリオでは、欧米諸国が対ロシア経済制裁を無期限に継続することはほぼ確実であり、ロシア経済は次第に弱体化していくだろう。短中期的には武力、威嚇、汚職で秩序を維持できるかもしれないが、長期的にはコストとリスクが高くなる。

<シナリオ2:ゼレンスキー政権を温存させて、ロシアが圧力をかける>

これは、ゼレンスキー政権を温存して圧力をかけ、ロシア軍の大半がウクライナから撤退するシナリオだ。

このシナリオでは、ロシアはゼレンスキー政権を存続させるが、強い圧力をかけロシアに従わせる。そして、ウクライナの中立・非武装状態を憲法に明記し、場合によってはその保証のために一部のロシア軍基地がウクライナに止まる取引を締結させる。

ウクライナはクリミアの領有権も放棄し、東部のドンバス地方を譲り渡すことになる。キエフ政府は、連邦制を固定化し、憲法でロシア語の地位を保証することにも同意する。その後、ロシア軍は撤退し、ウクライナは廃墟と化し、侵略の余波で激しい政治的混乱に陥る。

長所:このシナリオにより、ロシアは長期的で費用のかかる軍事作戦や占領に頼ることなく、中立性などウクライナにおける最大の目標の多くを短期間で達成することが可能となる。また、欧米諸国は、特にウクライナ政府を正当なものと認識し、ロシアの軍事的プレゼンスを最小限に抑えることができれば、時間をかけて対ロシア制裁を和らげることができる。

短所:ロシアは、新たな軍事介入と占領で脅かす以外に、ウクライナが戦後の合意を守るための手段をほとんど持たないだろう。また、このシナリオでは、ウクライナ国民の一般的な反ロシアの政治姿勢が変わることはなく、領土を侵犯した後にモスクワが同国政府に協定を強要すれば、その姿勢は悪化するばかりであろう。やがて、親欧米のウクライナ人が大規模な反政府デモを起こし、ロシアと結んだ協定も廃止する可能性がある。

Next: ウクライナは分割される?残りの2シナリオも前途多難

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