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なぜ暗号資産「Terra/LUNA」は紙クズに?安定するはずのステーブルコインでいま起きていること。攻撃から暴落までの一部始終と今後の課題=山本仁実

崩壊した Terra と Luna

きっかけは、攻撃だった。数千億円とも言われる規模で、Terra に攻撃が仕掛けられた。違法なハッキング行為ではなく、暗号資産金融市場での巧妙な攻撃が行われたのだ。その手法は、ブロックチェーン上に残された痕跡や、多くの有識者の情報分析の結果、まとめられている。それらを総合的に見て、要点を記す。

攻撃者は、取引所でレバレッジをかけて大量の Terra USD を売却した。当然それはペグ外れを誘発する。巧妙であったのは、そのタイミングだと言われている。事前に予測できた Terra USD の流動性が極端に下るタイミングを見計らっての売却だったのだ。攻撃者の意図通り、Terra USD はペグ外れを加速させることになった。

この時、Terra プロジェクト側は価格維持のために保有していたビットコインを大量売却し、Terra USD の買い支えを実行した。しかし、ビットコインの大量売却によって市場全体に混乱は波及し、Terra USD の価格下落は止められなくなる。さらに追い打ちをかけるように、パニックになった投資家たちが Anchor に預け入れられた Terra USD をどんどん引き出し、売却していった。

Terra USD が売られすぎると、価格維持のために Luna が発行される。それが、このアルゴリズム型ステーブルコインの仕組みであった。そのため、今度は Luna でインフレが起き、価格が下落していく。それに目をつけた人たちは、当然 Luna を売り続ける。よって、Luna 価格も暴落していく。

短期間で起こったこの混乱に対して、投資家保護を考えた取引所は Terra USD の取り扱いを制限する。さらに、Luna の上場廃止を決定していく。2兆円規模の時価総額があったステーブルコインは、この一瞬で消え去ったのだ。

結果的に Luna の価格は 99.9% 下落し、Terra USD はステーブルコインであるにもかかわらず、96% も下落した。一連の騒動で消失した価値は、日本円にして総額6兆円以上とも言われている。

ステーブルコインは終わったのか

ここまで悲惨な現状を述べてきた。それでもあえて、私の意見を付け加えたい。私は、ステーブルコインがこれで終わったとは到底思わない。ましてや、暗号資産が終わったなどとも、もちろん思わない。

これほどの金額が消失した事件は過去に例がなく、見過ごすことはできないのは事実である。しかし、冷静に問題を切り分けて考えるべきだ。崩壊したのは Terra / Luna であって、アルゴリズム型ステーブルコインが全滅したわけではなく、また、他の分類のステーブルコインが信用を失ったわけでもない。

ステーブルコインの有用性は引き続き存在し、決して無くなることは無いだろう。同じく、暗号資産経済圏の意義がなくなったわけではなく、これからのそのエコシステムはますます拡大していくものと期待している。

今回の事件を受けて、世界的に規制は強化されるだろう。特にステーブルコインのような、現実の金融市場とのつながりが強い部分については、優先的に何らかの制約が設けられるものと思われる。それは結果的に、ステーブルコインを媒介として拡大していった DeFi 市場全体に影響を与えることになる。つまり、暗号資産市場全体への影響は決して小さくは無いだろう。

規制当局との対話を継続する取引所の運営者のひとりとして、私自身がこの状況を深刻に受け止め、同様の事態を再び傍観することのないよう取り組みを強化していくことを改めて肝に銘じた。

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取材協力:㈱カロスエンターテイメント
image by:FellowNeko / Shutterstock.com
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2022年6月10日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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