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ドル覇権は崩壊寸前。中ロ主導の「新国際決済通貨」が新興・途上国を巻き込み金融危機を引き起こす=高島康司

サンクトペテルブルグ経済フォーラム

2022年6月15日から18日にかけて、恒例のサンクトペテルブルグ経済フォーラムが開催された。主役は例年のようにプーチン大統領だった。プーチンはスピーチの中で、西側先進国に住むいわゆる「黄金十億人」(世界人口の12%にすぎない)の幻想と、「G7諸国の無責任なマクロ経済政策」を批判した。そして、ウクライナ戦争による「対ロシア制裁のEUの損失」が年間4000億ドルを超える可能性があること、また、ヨーロッパのエネルギー価格の高騰は、実は「昨年の第3四半期から」始まっていることで、「再生可能エネルギーを盲信している」ことが原因であると指摘した。

また、西側の「プーチン値上げ」プロパガンダをきちんと否定し、食糧・エネルギー危機は西側の誤った経済政策、つまり西側に不利な「ロシアの穀物と肥料が制裁されている」ことと関係があるとした。一言で言えば、西側はロシアの主権を見誤って制裁し、今、非常に大きな代償を払っていると批判したのだ。

中国の習近平国家主席は、フォーラムでビデオ演説を行い、グローバル・サウス全体にメッセージを発した。真の多極主義を喚起し、新興国が「グローバルな経済運営に発言権を持つ」べきだと主張し、「南北対話の改善」を求めた。

そして、ロシアと中国の戦略的パートナーであるカザフスタンのトカエフ大統領は、ユーラシア大陸の統合は、中国の一帯一路構想(BRI)と手を携えて進むべきだ」と主張した。

つまりこれは、現在の欧米主導のG7とは基本的に異なる拡張BRICSによる新たな経済・金融秩序の立ち上げ宣言となった。いわばこれが、ウクライナ戦争によるロシア制裁に対するロシアの反応であった。一言で言うと、欧米主導の金融・経済秩序からのロシアの分離宣言である。

現在の「ルール」は西側によって書かれたものである、というのがこのフォーラムのコンセンサスである。プーチンは演説で、ロシアは、欧米主導の国際法や制度が基礎の既存のメカニズムに接続することしかできなかった。しかし、その後、西側は 「我々を搾り取ろうとした」、さらには 「ロシアを抹殺しようとした」と主張。そして、「アメリカ人は自分たちを特別な存在だと考えている。そして、もし彼らが自分たちを特別だと思うなら、それは他の誰もが二流だということだ」とアメリカを非難し、いまこそ、「ルールを置き換える 」ときが来たと強調した。

新しい国際ルールの形成という理念こそ、プーチンが全体演説で展開したメッセージの根底にある重要なテーマである。

具体的には次のような点が討議されている。

・上海協力機構(SCO)の範囲内でのビジネス
・ロシアと中国の戦略的パートナーシップの確認
・BRICSの今後
・ロシアの金融セクターの展望
・ユーラシア経済連合(EAEU)とASEANの交流の拡大
・ユーラシア大陸横断企業の発展
・グローバル経済のシステムにおけるEAEUの役割

これらの諸点を踏まえ、ロシアのアレクセイ・オーバーチャック副首相は、東南アジア、アフリカ、ペルシャ湾の新市場に参入するために、完全な自由貿易・関税・経済連合の実施と統一決済システム、そしてロシアのミール決済カードを使った簡素化された直接決済について説明した。

第14回BRICSサミット

さらに6月23日には、サマルカンドで第14回BRICSサミットが開催された。この会議ではサンクトペテルブルグ経済フォーラムよりもさらに一歩進み、プーチン大統領は、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国の経済圏が、「新しい国際基軸通貨 」を発行する計画であることを明らかにした。プーチンは、「我々の国の通貨バスケットに基づく国際基軸通貨を創設する件は、現在検討中である。我々は、すべての公正なパートナーとオープンに協力する用意がある」と述べた。さらに、トルコ、エジプト、サウジアラビアがBRICSグループへの加盟を検討していることも明らかにした。

この動きは、これはIMFを使ったアメリカの覇権主義に対処するための動きであり、BRICSが独自の勢力圏とその中での通貨単位を構築することができるようになる一歩である。

一方、中国の習近平主席も、「世界金融システムの支配的地位を利用して世界経済を政治化、道具化、武器化し、やみくもに制裁を加えることは、自らを傷つけるだけでなく他者をも傷つけ、世界中の人々を苦しめるだけだ」と述べた。そして、「強者の立場に執着し、軍事同盟を拡大し、他者を犠牲にして自国の安全を求める者は、安全保障の難局に陥るのみだ」と言いアメリカを強く非難した。

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