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ドル覇権は崩壊寸前。中ロ主導の「新国際決済通貨」が新興・途上国を巻き込み金融危機を引き起こす=高島康司

新興国と発展途上国は導入せざるを得ない

実は現状から見ると、脱ドル化であるこの新基軸通貨は、新興国と発展途上国であれば、かならず導入せざるを得ない状況にあるのだ。そしてその導入こそ、2023年から24年頃に必然的に起こる金融危機を準備することになる。

もはや説明するまでもないだろうが、いま世界的にインフレのコントロールができない状態になっている。インフレはアメリカやイギリスでは9%を越え、EU諸国全体では8.9%の上昇だ。どの地域でも約40年ぶりの高水準のインフレだ。特に石油とガスのエネルギー価格の上昇は極端だ。EU諸国では軒並み三倍にもなっている。冬になるとヨーロッパでは、食事の回数を減らすのか、それとも暖房を取るのかの選択にもなると言われている。

このような高インフレの原因ははっきりしている。新型コロナのパンデミックが終わり、急速に需要が回復しつつあるときに、中国のゼロコロナ政策などによってサプライチェーンの寸断が続き、供給がまったく追いついていないことだ。

そして、ちょうどそのタイミングでウクライナ戦争が勃発し、ロシアに対する厳しい経済制裁によって、ロシア産の石油と天然ガス、さらに小麦や飼料を含む幅広い製品の実質的な禁輸が続いたからだ。さらに折からの気候変動による農業生産の低迷もあいまって、エネルギーと食料価格は極端に高騰した。

そして、周知のように、アメリカを始めとした主要国は、高インフレに対処するため、前例のないペースで利上げに踏み切った。新型コロナのパンデミックの痛手からの回復を目的に実施した大規模な金融緩和策からの全面的な方向転換である。

このアメリカやイギリス、そしてEUの利上げは思っても見ない状況を招いている。それは、利上げに消極的な国々との間の金利差による通貨安である。国内の資金は金利の高いアメリカでの運用のために流出するので、ドル買いが盛んになり、自国通貨の価値が大きく下落するのだ。

特にこれは、新興国と発展途上国には大きな痛手となっている。折からのエネルギーと食料の高騰に、さらに自国通貨下落による輸入物価の上昇で、国内のインフレは高騰した。トルコは80%、スリランカは70%、ナイジェリアは17%だ。この高インフレでは国民の生活水準は急低下するので、国民の不満はとても高まる。

しかし問題は、高インフレに苦しむ新興国や発展途上国の政府の多くが、ドル建ての債務を抱えていることである。新興国や発展途上国の場合、信用力のない自国通貨建てで国債を発行できる国は非常に少ない。ほとんど場合、信用力のあるドル建てで国債を発行し、利回りも米国債と同じ水準になっている。こうした状況で、もしインフレ退治のためにアメリカの金利が上昇すると、ドル建ての国債を発行している国々の利払い費も同様に高くなる。ただでさえ高インフレに対処するために財政が逼迫している新興国や発展途上国は、利払い費の増大でさらに苦しくなる。

このような状況に陥ると、これらの国々は、収入と輸出収入の多くを対外債務の返済に充てなければならない。すると、デフォルトする国々も出てくるだろう。そのときは、IMFに支援を求めることができる。しかしこれを行うと、IMFにる極端な緊縮政策の強要で、国内の貴重な天然資源、森林、水源が欧米資本に売却されることなる。この結果、さらに困窮した国々は、さらにドル建て債務に走ることになる。そして、同じ悪循環を繰り返す。

10年前であれば、一度この悪循環に陥ってしまうと、これから抜け出すことは基本的に困難だった。しかし、中ロが主導するユーラシア経済圏の新国際決済通貨が導入されると、この悪循環に対処できる強力な選択肢ができる。それは、脱ドル化の方向である。

もしユーラシア経済圏で導入される国際通貨バスケット方式の国際決済通貨を通して輸出入を行っているのであれば、そもそもアメリカの金利上昇による為替変動の影響はまったく受けない。したがって、通貨安によるインフレは回避できる。さらに、この新国際決済通貨建てで国債を発行するなら、アメリカの金利上昇による利払い費の上昇などということもない。したがって、無限債務の悪循環に陥ることもない。

もしタイミング的にユーラシア経済圏の新国際決済通貨と、新興国や発展途上国のデフォルト懸念が重なるようであれば、多くの国々はこぞってこの脱ドル化という選択肢を積極的に選ぶ可能性が高い。

Next: 引き金はウクライナ戦争。脱ドル化の動きが新たな金融危機に繋がる

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