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ドル覇権は崩壊寸前。中ロ主導の「新国際決済通貨」が新興・途上国を巻き込み金融危機を引き起こす=高島康司

ユーラシア全域を結ぶ経済ルート

このように、サンクトペテルブルグ経済フォーラムとその直後に開催されたBRICS首脳会議では、ウクライナ戦争後の状況を踏まえ、中ロ主導の拡張BRICSを中心とする経済ルートの急ピッチの建設が宣言された。ユーラシア大陸を横断する6つの陸上回廊と、南シナ海、インド洋からヨーロッパに至る海上シルクロードに沿って発展している既存の一帯一路に加えて、次のようなルートが加わわるとしている。

<国際北南輸送回廊(INSTC)>

インド、アフガニスタン、中央アジア、イラン、アゼルバイジャン、ロシアを結び、バルト海のフィンランドに至る全長7,200kmの船舶、鉄道、道路の複合輸送ネットワークであり、典型的な南と南を結ぶ統合プロジェクト。

ロシアのサンクトペテルブルクからアストラハンまで、陸路でコンテナを運び、その後、カスピ海を経由してイランのバンダル・アンゼリ港に入港。そして、陸路でバンダルアッバス港から、インド最大の港であるナヴァシェバまで海外輸送する。運営主体は、ロシアとインドに支社を持つイラン・イスラム共和国船舶会社(IRISLグループ)だ。

<北方海路>

中国の大連を起点にロシアの海岸線に沿ってバレンツ海から北極圏を回り、オランダのロッテルダムに行く航路。中国の海上シルクロードと相互作用し、これを補完する。ロシアと共同で開発が進む。欧米の影響下にあるスエズ運河回りの南航路よりも、日数は10日も短く、またコストも安い。

新しい国際決済通貨の導入

すでに中国の一帯一路に加えて、これだけの規模の経済ルートが加わる。それはユーラシア全域を包括すると同時に、北極を通してユーラシアをヨーロッパに接続する。この経済ルートの運営主体は、中国、ロシア、イラン、インドなどの拡張BRICS諸国の企業群であり、その意味では既存のアメリカ主導の国際ルールに従う必要はない。

そして、欧米主導ではないこうした新しい経済圏で導入が期待されているのが、新国際決済通貨システムである。それは、ユーラシア経済委員会の統合・マクロ経済担当委員で、ロシアの政治家で経済学者のセルゲイ・グラジェフが構想し、いま本格的な導入が検討されている新国際決済通貨である。第697回の記事で説明したが、これはいくつかの評価基準(GDP、領土と人口の大きさ、国際貿易におけるシェア)にしたがって表されるBRICS各国の通貨のバスケットと、さまざまな商品(金などの貴金属、主要工業金属、炭化水素、穀物、砂糖、さらに水などの天然資源)の価格インデックスのバスケットに基づくとされている。

この新決済通貨の狙いは2つある。

ユーラシアで、ドルの覇権に対抗して多極化のシステム(国際通貨バスケット)を復活させること。そして次は、中央銀行と市場を唯一の決定とする現行のシステムに対抗して、より合理的なシステム(実体経済が適切に機能するために必要な物理的商品価値のバスケット)に回帰することだ。

もしこれが、いま急速に台頭しているユーラシア経済圏に導入されるなら、アメリカのワシントンコンセンサスとは異なるルールに基づくグローバルな金融システムが樹立されるだあろう。

もちろんこれは、ドルにはまったく存在しないシステムとなる。しかし、構想としてはそのようなものが存在しても、果たしてこの通貨が実際に導入される可能性はあるのだろうか?

Next: 進む脱ドル化。新興国と発展途上国は導入せざるを得ない

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