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コロナ自粛で国民は50兆円も貯め込んでいる?「強制貯蓄」を過信して値上げラッシュを傍観する日銀の罪=斎藤満

米国ではすでに息切れ現象も

強制貯蓄は日本だけではありません。

米国でも指摘され、しかもコロナ支援策として1人3,000ドルの給付金や、大規模な失業保険上乗せがあったため、米国ではコロナ禍で発生した強制貯蓄は300兆円との試算も見られます。

しかし、インフレが急速に進んだうえに、昨年から規制緩和が進んだこともあって、この貯蓄が一部ではすでに使い果たされた兆候も見られます。

個人の信用度をスコアで調べているバンテージスコアの調査によると、25歳以下のクレジットカード債務残高は、この6月末で前年比30%増となっています。全年齢層では11%増なので、若者の間で貯蓄が枯渇し、借り入れが増えている状況が見えます。また信用スコアの平均は697点に対して、650点以下のスコアの人の債務は25%増となっています。

若い人や低所得で信用スコアの悪い人の間で、貯蓄が減少し、クレジットカード債務やオートローンなどの債務が増えています。

気前よく旅行したりコロナ禍で抑圧されたリベンジ消費した結果、早くも貯蓄を食いつぶし、懐の制約に突き当たる層が出てきていることになります。

日本の実態は

コロナ禍での日本の家計消費、貯蓄の状況を総務省の「家計調査」から、2人以上世帯の数字で見てみたいと思います。

まずコロナ禍での貯蓄の増え方ですが、全世帯平均ではコロナ前の2019年の1,755万円から、コロナ直撃の2020年には1,791万円に36万円増えました。続く21年は1,880万円で、さらに89万円増えています。2019年の貯蓄増加額が3万円だったので、やはりコロナで消費が抑えられ、貯蓄がたまっていたことが伺えます。そして21年にはリベンジ消費ではなく、再びコロナ自粛した姿が見えます。

この平均値では一部の資産家の数字が押し上げるので、「中央値」でみると、2019年が3万円減の1,033万円、20年は28万円増の1,061万円、21年は43万円増の1,104万円となっています。一部資産家の増加の影響が大きいことがわかりますが、中央値でみても20年、21年の消費自粛、貯蓄増が見えます。

消費の内訳を基礎的消費と選択的消費とに分けてみると、コロナ前は選択的消費の割合が42%台でした。2015年が42.7%、2019年は42.0%です。これに対して、コロナ禍で2020年はこれが39.3%に落ち、21年はやや戻しましたが依然として39.7%にとどまっています。

選択的消費がコロナでより縮小したことが見て取れます。その一例として、旅行支出がコロナ前は年間10万円前後だったのですが、20年・21年は3万5,000円前後に落ち込んでいます。21年には規制が緩和され、旅行が増えたように見えますが、年間では必ずしも増えておりません。ここでのリベンジは22年以降と見られます。

6月の家計調査(総務省)によると、6月の実質消費は前年比3.5%増と、4か月ぶりにプラスとなりました。旅行など教養娯楽が前年比13.3%増、交通通信が11.5%増と好調で、逆に物価高の光熱水道、食料は減少しています。

値上がりしたものを節約しながら、これまで抑えていた消費を増やした形に見えます。

そして4-6月期でも前期比2.0%増と、1-3月の前期比1.9%減から回復しました。しかし、リベンジ消費というには小幅です。名目では増えましたが、物価高で吸収されている面も無視できません。

また今年4-6月の平均消費性向は62.6%で、前年の61.2%、コロナ直後の20年4-6月の53.3%より高まっていますが、コロナ前の19年4-6月の66.4%にはまだ届きません。

コロナでの落ち込みは小さくなりましたが、コロナで抑制した分の取戻しには至りません。

もっとも、「一期一会」的な面もある旅行は、2年間控えたので今年は2倍行くというものではありません。一度逃した旅行機会はもう戻りません。そこで浮いた資金の使途として、百貨店の宝飾品売り場が好調であったり、寿司屋や高級飲食店が繁盛するように、形を変えて消費しているように見えます。

Next: 「強制貯蓄」もすぐに枯渇。インフレによる景気縮小が迫っている

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