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エヴァ好き中国オタクが作った『原神』なぜ世界中で大ヒット?わずか2年で売上は東京ディズニーリゾートに匹敵=牧野武文

『原神』の売上は東京ディズニーリゾートに匹敵

原神というゲームの内容についてあまり深く触れるつもりはありませんが、お話を理解していただくために、ある程度はご紹介しておく必要があります。

原神は、男性または女性の主人公(自分の分身)が、仲間のキャラとともに世界を探索するアクションRPGです。デジタル解析プラットフォーム「Sensor Tower」は、原神の2年間での累積収入が264億元(約5,200億円)と推定できると発表しました。日本の企業情報を見ると、オリエンタルランド(ディスニーリゾート運営)の2021年の売上高が2,757億円となり、原神の売上高とほぼ同じです。原神は、東京ディズニーリゾート(コロナの影響で大幅減収しているとは言え)と同じくらいお金を稼いでいるのです。

原神の何が面白いのかは、さまざまな方が記事やブログで書いていますが、重要なのはあらゆる要素のレベルが高いということです。オープンワールドの作り込み、萌えキャラの際立ち方、バトルモーションの作り込みの細かさ、深みのあるバトルシステム、美しいグラフィック、継続的に広がるオープンワールドと追加されるイベントシナリオとキャラ、無課金でも遊べる課金圧の低さなど、この手のゲームに必要とされるすべての要素においてレベルが高いのです。

ゲームだけでなく、映画やドラマもそうかもしれませんが、気に入る点は人それぞれです。しかし、原神はあらゆる要素のレベルが高いので、さまざまな興味を持った人が異なる点を気に入って原神にハマっていきます。この受け止めの広さが原神のヒットの理由だと私は考えています。

原神のリリース前は、予告映像などを見て、多くの人が「ゼルダの伝説ブレス・オブ・ザ・ワイルド」のパクリーゲームという酷評をしました。しかし、リリースされてみると、そのような酷評はかなり減少しました。実際にプレイしてみると、見た目は確かに似ているところもありますが、路線の異なるゲームだということがわかったからです。

普段ゲームをやらない方も、原神はぜひインストールして、チュートリアルだけでも遊んでみることをお勧めします。「ゲームはここまで進化しているのか」と驚かれると思います。

ただし、本格バトルが始まると、ゲーム経験の少ない方にはかなり難易度が高いと思います。単純なバトルではなく、敵とキャラの相性であったり、攻撃の組み合わせ、重ね合わせをよく考えないと攻略ができません。今の時代は普通の難易度のゲームなのかもしれませんが、私にとっては正直手に余る難しさです。この難しさも人気の要素のひとつになっています。

miHoYoを生み出した天才エンジニア

今回は、原神を生み出したmiHoYoが、中国のゲーム業界をどう変えていったのかをご紹介します。

miHoYoの中心人物は蔡浩宇で、この人はオタクの天才と呼ばれています。5歳でゲームを遊び始め、8歳からアニメ制作に夢中になりました。

この早熟の天才が育ったのは、両親の影響も小さくありません。両親は二人とも済南交通専門学校でコンピューターを教える教師でした。5歳の頃、ゲームを遊び始めた蔡浩宇は、なんとゲームソフトのソースコードを開いて仕組みがどうなっているかを見るような子どもでした。両親は驚き、5歳の子どもに最新のコンピューターを買い与えました。それから、蔡浩宇はコンピュータに夢中になっていきます。

小学校の時はコンピューター制作コンテストで2等賞を最年少で受賞したこともあります。中学、高校ではデジタルアニメの制作と物理学に夢中になり、上海交通大学に進学をしました。ご存知の方も多いと思いますが、上海では復旦大学に並ぶ一流校です。

上海交通大学に進学をした2009年の冬、蔡浩宇は「格物末世録」というライトノベルを書きました。このライトノベルはネットには残っていないため、どのような内容のものかはよくわかりませんが、miHoYoの黒歴史と呼ばれています。若さとオタクっぷりに満ちた内容だったようです。

そして、ほぼ同時期にゲーム開発環境「MisatoEngine」を開発します。これはFlash上で2.5次元俯瞰型のゲームを制作できる開発ツールです。Misatoは、エヴァンゲリオンの登場人物葛城ミサトにちなんでいます。

この開発を手伝ってくれたのが、同級生の劉偉(リュウ・ウェイ)、羅宇皓(ルオ・ユーハオ)の2人でした。この3人がmiHoYoの創業メンバーになっていきます。MisatoEngineは中国科学院が主催した中科張江杯・青年技術イノベーションコンテンストに出品し、20万元の賞金を得ました。

翌年の2010年7月には、麻球ゲームというゲーム企業の講演に刺激を受けて、MisatoEngineを使って「娑婆物語」というゲームを開発します。このゲームの主人公は以前描いたライトノベル「格物末世録」の主人公・弥生奈奈月であり、アイコンとして綾波レイや惣流・アスカ・ラングレーも登場します。

2010年12月、蔡浩宇は「娑婆物語」を麻球ゲームが主催をしたゲーム開発コンテストに出品し、学生部門で優勝、インテル特別賞を受賞して3万元の賞金を得ました。

[星缈]米哈游大佬远古作品,《娑婆物语》Part0.

▲ビリビリに残っている「娑婆物語」の映像。MisatoEngineを使って開発されたゲーム。

このコンテストの後のメディア取材に対して、蔡浩宇はこう答えています。「地下鉄の中でたくさんの人が僕がつくったゲームについて話しているという夢を描くようになりました。商業的に成功するゲームをつくるのが僕の目標です。卒業後はゲームディレクターか開発エンジニアになりたい」。

まだ学生であるというのに、「商業的に成功するゲームを目指している」とはっきり言っているのです。

さらに、MisatoEngineのアップグレードをしている最中で、同時に美少女シューティングゲームも開発しているとインタビューで答えています。ゲームの名前は「Girls Gun NPCs」でしたが、これが後の「崩壊学園」になります。

そして、2011年1月、中心となっている3人と、ザン志成、CiCiの2人を加えて、miHoYoという名前のチームを結成します。このチーム名が後にそのまま社名になります。

Next: エヴァンゲリオンを愛しすぎたオタクの失敗

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