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エヴァ好き中国オタクが作った『原神』なぜ世界中で大ヒット?わずか2年で売上は東京ディズニーリゾートに匹敵=牧野武文

エヴァンゲリオンを愛しすぎたオタクの失敗

そして、開発を始めたのが「fly me 2 the moon」です。いうまでもなくアニメ「エヴァンゲリオン」のエンディング曲の名前です。このゲームは上海市科学技術創業センターの大学生創業基金会が実施をしていた「鷹のひなプロジェクト」から得た10万元の資金で開発をしました。また、50平米のオフィスも無料で半年間利用できる権利を得ました。これで2012年2月、miHoYoが会社として成立します。

しかし、面白いのはここです。中心メンバーの3人+2人でmiHoYoを創業しましたが、目的は「世界で最高のアニメ制作会社になる」でした。ゲームをつくっているのに、目指しているのはアニメ制作会社なのです。当時の中国アニメというと「喜羊羊と灰太狼」(シーヤンヤン)が人気で、典型的な子供向けアニメです。

▲中国で有名な「喜羊羊と灰太狼」のアニメ。子ども向けであり、miHoYoのメンバーは、エヴァンゲリオンのようなオタクのためのアニメをつくりたいと考えた。

miHoYoのメンバーは全員が(というより当時の中国人の若者はほぼ全員が)エヴァンゲリオンのファンで、オタクのためのアニメをつくろうと集まったのがmiHoYoでした。

当然、制作をするのに従来のような手書きのセル画ではなく、コンピューターで制作をしようと考えています。つまり、娑婆物語やfly me 2 the moonはゲームというよりもデジタル制作アニメのゲームパートという感覚でした。

蔡浩宇はまずIP(キャラクター、世界観など)を成立させることが中心にあると考えました。そしてそのIPで3Dのデジタルアニメを制作し、ゲームパートの部分はゲームとして販売し、シナリオはライトノベルとして販売し、静止画の部分はコミックとして販売する。ACGN(アニメ、コミック、ゲーム、ノベル)のコンテンツの壁というものは、蔡浩宇の頭の中にはなく、もはや融合して一体化をしていました。

ひょっとしたら、蔡浩宇の感覚では、「格物末世録」はシナリオであり、「娑婆物語」は3Dアニメ部分であり、「fly me 2 the moon」はゲーム部分であり、パッケージは違っていても、同じ一つの作品の部品をつくっていたのかもしれません。

しかし、fly me 2 the moonのダウンロード数はトータルでも3,000本程度で成功とはとても言えませんでした。

たびたびエヴァの要素が出てくるように、あまりにもオタク寄りすぎたのです。

劉偉はこう説明します。「オタクは他の人たちは大きく違うと感じています。忠誠度が非常に高いのです。優れたコンテンツを開発すれば、必ず応えてくれる。私たちが毎日登場する新しいアニメにお金を使うように、優れた作品を開発すれば高い忠誠度で、お金を払ってくれるのがオタクなのです」。

つまり、自分たちもオタクであり、オタクのことはわかっている。オタク向けのコンテンツを開発すれば商業的にも成功できるという考え方だったようです。しかし、難しいのはオタクたちは自分たちがビジネスに利用されると察知することにも敏感で、それがわかるとそっぽを向きます。オタクたちにも納得されるクオリティにしなければならない、しかしあまりに濃すぎるとライトオタクの人たちがついてこれない。その辺りがまだうまくつかめていなかったようです。

初音ミクから命名したmiHoYoが本格始動

創業資金10万元と言えば聞こえはいいですが、実際にはコンピューターを買ったりするとすぐになくなってしまいます。開発を続けるには、2年で最低でも100万元は必要になります。miHoYoは、投資をしてくれる個人、投資会社を探すようになります。

これといった実績のないmiHoYoでしたが、救いは上海交通大学という一流校の学生起業スタートアップということでした。この大学の名前で会ってくれる投資家もいました。しかし、miHoYoのメンバーはみな内向的なオタクで、話はうまくありませんし、投資家に会うのにこざっぱりとした服装をするという常識もありません。投資家から見れば、みすぼらしい学生がやってきてボソボソと話をしてお金を出してくださいと言われることになります。しかも目論見書には「世界で最高のアニメ制作会社になる」と書いてあるのに、具体的なプランというのも特にありません。

しかし、斯凱網絡科技(SKY)という企業が投資を申し出てきます。担当者はオタクとアニメに理解があり、miHoYoのメンバーが住んでいた(この時はまだ大学院生です)学生宿舎にまで会いにきてくれ、100万元の出資を申し出ました。これが最初のmiHoYoへの投資となります。

miHoYoにはさらにもう2人加わり、7人体制となりました。役割ははっきりとしていました。蔡浩宇がコンテンツ制作のプロデューサー兼ディレクター兼アニメーター兼プログラマーで、技術関係も担当しています。羅宇皓が商品設計と販売を担当しています。劉偉が経営と総務を担当しています。劉偉が表向きの代表者です。そして、蔡浩宇と羅宇皓の名前は偶然にもHaoYu、YuHaoと似ているため、HとYを使う社名にし、さらに初音ミクのmiを使ってmiHoYoとしたと言われています。

蔡浩宇は新しいIPとして「崩壊学園」を構想し、キャラクター設定、世界観設定を進めていきます。どのような形でアプトプットするかをメンバーで話し合い、スマホゲーム、コミック、アニメ、音楽に展開をすることに決定します。

その中でも、最もつくりやすいスマホゲームの開発を最初に行うことにしました。

2012年末には「崩壊学園」(日本発売になった崩壊学園はこの次のバージョンです)をリリースしました。6元の有料アプリです。しかし、これも空振りでした。

劉偉は言います。「2013年は、miHoYoが最も苦しい時期でした。投資家の資金は得られてもお金が稼げない。私たちは自分の給料を4000元に設定していましたが、同級生たちは卒業をして1万元だとか2万元の給料をもらうようになっています。つらかったですね」。

2013年、miHoYoの年間収入は130万元(約2,500万円)でした。7人の会社ですから、とても回っていきません。投資資金もほとんど底をつく状態になりました。

この数ヶ月間、7人は毎週週末は会議をしていたといいます。どうやったらmiHoYoを続けていくことができるかということがテーマです。失敗はしたけど崩壊学園のIPをさらに展開をしていくか、それとも当時流行っていた安直なカードバトルゲームを開発して資金を稼ぐかというものでした。

その結果、崩壊学園のIPで、もう一度スマホゲームを開発をして勝負をしてみようということになりました。わずか7人で質の高いスマホゲームを開発するという無謀な挑戦を行うことにしたのです。

劉偉は開発現場を抜け出して、投資家の間を回りましたが、成果は得られませんでした。崩壊学園はオタクの間では評価をされて、企業の担当者は投資話に乗ってくるのですが、経営層から断られてしまいます。

Next: 潰れる直前まで追い込まれて、ついに出たヒット作「崩壊学園2」

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