現在、世界中で人気を博しているRPGゲーム「原神」ですが、エヴァを愛する中国の小規模なオタク集団が生み出しました。どのようにしてお金のないオタク達が、東京ディズニーランドに匹敵するほどの売上を達成するまで成長したのか?その道程を探ります。(『 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』牧野武文)
※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2022年11月21日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。
90年代生まれの中国人のビジネス発想
みなさん、こんにちは!ITジャーナリストの牧野武文です。今回は、アクションRPG「原神」(げんしん)を開発した米哈游(miHoYo)についてご紹介します。
ゲームというのは好きな方は好き、興味がない方はないとはっきり分かれるため、特定のゲームや特定のゲーム企業を取り上げると、半分以上の読者にとっては興味のない記事になりかねません。
「vol.149:中国スマホゲームの進む2つの方向。海外進出とミニプログラムゲーム」で、「羊了個羊」(ヤンラガヤン)というゲームを取り上げたのは、ゲーム産業がWeChatミニプログラムを利用して収益の拡大をねらうという新しいビジネスモデルが生まれる可能性があったからです。同じ手法が、他のエンターテイメントである映画やドラマ、音楽などで起こる可能性すらあります。
ではなぜ、「原神」というゲーム、miHoYo(中国名の読みはミハヨに近いですが、日本ではミホヨと読むのが一般的です)というゲーム開発企業を取り上げるのでしょうか。ゲームの内容の解説や攻略法をここでご紹介するつもりはありません。取り上げる理由は、90后(90年代生まれ)のビジネスの発想方法が、それまでの80后とは大きく違っていることをご紹介したいのです。
80后は、貧しい中国を知らない世代として中国社会の改革者の役割を担っている世代です。伝統的な習慣や考え方にとらわれず、旧習を打破し、場合によっては破壊をしていく創造者です。
ビジネスの世界では滴滴、ウーラマ、ピンドードーなどの創業者が80后です。滴滴はアプリでタクシーを呼ぶというサービスから始まっています。ウーラマはフードデリバリーというサービスを発明した企業です。ピンドードーはSNSとECを連動させました。テクノロジーを媒介にして、タクシー業界、飲食業界、EC業界の壁を打ち破ることで成立したサービスです。
では、90后はどのようにビジネスをつくっていくのでしょうか。あくまでも私個人の感覚ですが、miHoYoがその典型であるように思います。それを今回ご紹介したいのです。
壁を破る形でビジネスをつくっていく80后とどこが違うのかを意識しながらお読みください。
オタクカルチャーに染まった90年代生まれの中国人
miHoYoの創業者の中心人物、蔡浩宇(ツァイ・ハオユー)は1987年生まれであるため、厳密には80后ですが、90后の先駆け世代です。ちなみに95年以降がZ世代と呼ばれます。
そういう90后たちが、中国の文化を大きく変えようとしています。そして、この世代は基本的に全員がオタクです。ACGN(アニメ、コミック、ゲーム、ノベル)が趣味の中心であり、世代を通じた基礎教養になっています。もちろん、ほとんどがガチのオタクとは呼べないライト層ですが、「萌え」は誰もが理解する共通感覚になっています。このような世代が社会の中で活躍するようになっているのです。
これから90后が中国社会の中心になるとともに、ゲーム以外の分野でも同じことが進んでいきます。miHoYoは企業スローガンとして、Tech Otakus Save the World(テックオタクが世界を救う)を掲げています。今後の中国では、Tech Otakus Change the Chinaという現象が起きるかもしれません。