異次元の少子化対策を打ち上げる岸田政権。その歳出規模は3兆円を超えると言います。児童手当などバラマキ規模だけ大きくするのではなく、その財源をどうするのかも、国民に諮る必要があります。投票権のある現役世帯に良い顔をして増税負担を避け、国債発行に頼れば、少子化対策のコストを現在の子どもや孫世帯に付け回すことになり、「子どもに負担をかける少子化対策」というブラックジョークになりかねません。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2023年6月7日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
3兆円規模「異次元の少子化対策」は選挙の票稼ぎ?
異次元の少子化対策を打ち上げる岸田政権。その歳出規模は3兆円を超えると言います。
少子化担当大臣を据えて何年もこの問題に取り組んでいますが、少子化を食い止めることができません。昨年の出生者数は77万人余りと、ついに80万人も割り込み、明治の時代に逆戻りしました。
政策に効果が出ないと、その規模を膨大にする発想はアベノミクスと変わりません。
しかも、その財源には触れず、この恩恵にあずかる人の数を増やすことに余念がありません。資産家にも、高校生の子どもを持つ高齢世帯にも児童手当を支給し、学費の補助をします。
解散総選挙の時期を探る岸田政権にとって、少子化対策の成果よりも、選挙へのプラス効果がより重要なようです。
少子化の原因を明かせ
病気を治すにはその原因を正しくつかみ、そのうえで処方箋を書くのが医者の仕事。病気の原因がわからないまま、ただ薬を大量に与えても病気は治りません。むしろ薬の投与過剰で副作用が出るリスクがあります。
現在日本で進行する少子化の原因を、政府は正しく診断できているのでしょうか。
政府の基本認識は、子育てには金がかかるので子どもを増やせない、との認識で、従って子育て世帯に思い切って経済支援すれば解決する、というものです。
確かにコスト高ゆえに、経済的に2人目・3人目を産む余裕はない……との世帯もあります。従って経済的余裕のない若年世帯に経済支援することに異論はありません。
しかし、少子化という病気の原因はそれだけでしょうか。すでに子どもを持つ世帯に経済支援することで、どれだけの成果が上がるのでしょうか。
「結婚して家庭を持つだけの経済力がない」
そもそも子どもを持ちたくても持てない人たちにも目くばせが必要です。その点、出生数と結婚件数との間に高い相関があります。結婚件数が減少していることが少子化の大きな要因になっています。
生涯独身を通すという人が男女を問わず増えています。その理由の中に、結婚して家庭を持つだけの経済力がない……という点が無視できません。国税庁の民間給与実態調査によると、非正規労働者の年収は平均で190万円程度で、正社員の4割にも及びません。これでは結婚して子どもを持つ意欲がわきません。
日本の結婚件数は1972年に110万組でピークを付けた後減少し、コロナの2020年には52万組まで減少、その後も回復せず、22年も速報値で52万組弱となっています。結婚する人が減れば、出生数が減るのも理解できます。結婚適齢期の対象者数が漸減傾向にあるのも事実ですが、前述のように、結婚しない人が男女ともに増え、さらに初婚年齢も高齢化しています。
ここに少子化の大きな原因があるとすれば、児童手当の拡充では解決しえないことになります。まずは安心して結婚し、子どもを持てる環境を作ることが重要です。その処方箋が書かれていません。