缶詰やペットフード等の製造で著名な食品メーカー「いなば食品」において、今春の一般職採用の新入社員19人のうち少なくとも17人が入社を辞退する、“異常事態”になっていると週刊文春が伝えている。
入社を辞退した女性によれば、当初は真新しい社員寮が完成していると聞いていたものの、実際に社宅として会社に案内されたのは古い一軒家ばかりで、そこに新入社員同士2~4人に分かれて共同生活を送ることを迫られたとのこと。
また給料についても、入社直前になって、募集要項に明記してあった額よりも3万円ほど少ない額を提示されたという。
同社の現役社員が語るところによれば、社員の待遇を指示しているのは社長夫人で現在は取締役を務める人物だといい、社内では「逆らうと、どうなるかわからない」と恐れられる人物だという。
新入社員への共同生活強制は社長の強いこだわり故か
フレーク状になったツナ缶の先駆けとなったとされる「いなばライトツナ」の販売で、以前から知られていたものの、2012年発売の「CIAOちゅ~る」が空前の大ヒットとなったことで、ペットフードの会社としての知名度も高いいなば食品。
2022年に売上高が初めて1,000億円を超えたという同社だが、2024年には1,750億円となる見込みと、その企業規模は拡大の一途。近年では「世界の猫を喜ばす」とのスローガンのもと、現在ではあの大谷翔平選手が所属するドジャースとスポンサー契約を結び、スタジアム内に広告を大々的に掲出するなど、海外での知名度拡大にも余念がないようだ。
このように静岡のイチ食品会社から、今や世界的な企業に成長したいなば食品なのだが、現社長の稲葉敦央氏の苗字からも窺えるように、いわゆる典型的な“同族企業”であり、しかも非上場だということ。
この手の同族企業といえば、経営者やその一族がその企業文化の形成に良かれ悪かれ多大な影響を与えるものだが、先述のように入社直前になって給料を突然下げたり、しかも明らかに環境劣悪な古い一軒家に共同生活をさせるといった、露骨すぎる一般職への冷遇を、一人の人物の意向のもと行われるというのは、まさに同族企業の弊害もいいところといったところ。
しかも同社のサイト上には、総合職用の設備が整った新しい社員寮とともに、一般職向けとして古い一軒家の社員寮も紹介されていたとのことで、そういった明らかな差別を後ろめたいものとして認識する意識もまったくなかった模様だ。
一般職(転勤なし)の新入社員の9割が入社を辞退したといういなば食品、寮の見た目ひとつとっても総合職(転勤あり)との差別が露骨で笑った。 pic.twitter.com/CkElwqrwBa
— まことぴ (@makotopic) April 11, 2024
ちなみに現社長の稲葉敦央氏だが、いなば食品に入社する前に、当時の東京海上に勤めていたということだが、その際に独身寮に8年間住み、寮長まで務めたという。
その経験を踏まえて氏は、地元の新聞に寄せたエッセイで「家族の幸せはあまり大きな家には住まず、多めの家族が同じ場所で同じ時間に同じ「釜の飯」を食べる事が原点ではないかと思う」「その意味で会社には良い独身寮が必要だ」などとの持論を過去に振るっていたようなのだ。
ボロい一軒家をあてがうこと以前に、新入社員のほとんどに共同生活を強いるということ自体、今の令和の世にあって異質といえば異質なのだが、それもどうやら社長自身による強いこだわりがあってのことだったようだ。
SNS上で噴出する「同族企業はヤバい」との声
このように社長あるいはその一族の意向に、社員らが大いに振り回されているといった今回の件なのだが、SNS上では上記以外にも、真偽こそ不明ではあるのだが、なぜか揚げ物を食することが同社では禁じられている……といった話や、過去の同社の運転手の求人には“塾の送迎”も含まれており、いわば家族のお世話係を強いられるようだったといった話も浮上。
「ちゅ〜る」いなば食品 → 揚げ物禁止
ビッグモーター → 街路樹禁止
タマホーム → ワクチン禁止 https://t.co/hMg9qyliX8 pic.twitter.com/VkQoOvtXNA
— Masa (@masanews3) April 11, 2024
何年も前にいなば食品の運転手の求人見た。内容は家族のお世話係。塾の送迎とか休みも書いてあるけど、こんなもん有耶無耶にされるやつやん。本能的にわかった。非上場の同族経営の企業って、こんなもんだよね。ちゅ~るにはお世話になっているけど。 https://t.co/TklpBJwnWl
— まいか@誤字脱字魔 (@gigliedm) April 11, 2024
こうした謎ルールの存在や公私混同といったものも、まさに“同族企業あるある”といったところと言えそうなのだが、それだけにSNS上では、過去にお家騒動が話題となったミツカンや、さらに昨年大いに世間を騒がせたビッグモーターなどといった企業の名も挙がりつつ、「やっぱり同族企業はヤバい」といった声が噴出している状況だ。
いなば食品の件もそうやけど、「一族経営の会社には入社しない」と義務教育で教えるべきやろ
— OSIRINOANA (@fable_1982) April 11, 2024
現代ニッポンにおいて、求職者目線では「同族企業は危険」という認識を持って良いと思う、私の知る限り20年以上前からブラック扱いだったし
ふと思ったのだが、100年前は同族企業って多かったのだろうな
しかし同族企業の中にも従業員を大事にする/しないが別れるはずで、何が分けるのだろうな https://t.co/VzegHiy7tk
— ドン・カマチョ (@Don_Camacho__) April 11, 2024
いっぽうで、そんな同族企業に共通しているのが、いずれもテレビをはじめとした各メディアへの広告出稿を、精力的に行っているという点。
ビッグモーターの件では、保険金の過剰請求に関して国交省がヒアリングを行う方針を示したことを契機に、テレビなどの大手メディアが堰を切ったように同社の疑惑を報じはじめたものの、それ以前は広告やCMを大量出稿してくれる大スポンサーである同社への遠慮か、積極的に報じるメディアはほとんどなかった。
今回のいなば食品の件の場合は、新入社員を古い一軒家に住まわせたり、社員に唐揚げ禁止を強いるのはともかくとして、入社直前になって給与額を下げるというのは、明らかに法に触れる問題行為だといえそうなのだが、やはり同様に大スポンサーであるゆえの忖度が働き、特にテレビなどでは恐らく報じられないのだろう……という見方が大勢といったところのようだ。
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