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日本はマジでヤバい。金融リテラシーが低すぎる…投資教育が国を潰す理由とは?けんすう・田内学【特別対談】

テクノロジーでクリエイターを支援するアル代表であり「アル開発室」を主宰する古川健介(けんすう)さんと、近著『きみのお金は誰のため』が「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」で総合グランプリを獲得した金融教育家・田内学さんが、日本の投資について語り尽くします。

クリエイターの資金調達から日本の投資教育の問題点まで、目が覚めるようなキレキレの対談をお楽しみください。

※本記事は有料メルマガ『「アル開発室」サービスづくりとスタートアップの“今とこれから”をのぞけるメディア』及び『金融教育家・田内学の「半径1mのお金と経済の話」』の2024年3月登録者向けの記事の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:古川健介(ふるかわ・けんすけ/通称けんすう)
アル株式会社代表取締役。学生時代からインターネットサービスに携わり、2006年リクルートに入社。新規事業担当を経て、2009年に株式会社nanapiを創業。2014年にKDDIグループにジョインし、Supership株式会社取締役に就任。2018年からアルを創業。

プロフィール:田内学(たうち・まなぶ)
金融教育家。東京大学大学院卒。ゴールドマン・サックス証券に入社後、16年間にわたり日本国債や円金利デリバティブなどのトレーディングに従事。2019年に退職後、金融教育家・作家として活動する。主な著書に『お金のむこうに人がいる』『きみのお金は誰のため』など。

クリエイター向けの投資ファンドは成立するのか?

田内学氏(以下、田内):こんにちは。まずは自己紹介をさせていただきますね。昨年、お金の教養『きみのお金は誰のため: ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』を執筆した田内学です。私はゴールドマン・サックスで2003年から2019年まで、金利や為替のトレーダーをしていました。働いている中でお金にまつわる社会の問題について思うことがあったんですが、あるときカリスマ編集者の佐渡島(※1)さんに会って、自分の思うところについて本を書きたいという話をしたら興味を持ってくれて、今回の出版に至りました。この本は2冊目になります。

じつは学生時代は経済と全く関係ないことをしていて、けんすうさんと近いプログラミングの分野にいました。当時はインターネットをみんなが使い始めたばかりの頃で、おそらく日本で初めてのSNS「ガーラフレンド」の事業にも関わっていました。
※1:クリエイターエージェントコルク代表。『宇宙兄弟』『君たちはどう生きるか』(マンガ版)などをプロデュースした。

古川健介氏(以下、けんすう):私は2000年ぐらいから様々なインターネットコミュニティーを作ったり、それを会社化したりして、インターネットカルチャーの中で過ごしてきました。今は「アル」という会社でクリエイターさんの支援をしているんですが、特にクリエイターの資金調達に重点を置いています。お金とクリエイティブに関係する分野が今の仕事ですね。

田内:クリエイターの資金調達には、僕も興味があります。佐渡島さんにも相談されたことがあるんですよ。漫画家やクリエイターは一人前になるまで本業に徹しきれないから、軌道に乗るまでバイトをしなければならないそうです。でもバイトをしながらだと、成長が遅くなるから、ファンドのように資金調達ができないかなと。それで実際に作ったんですよ。ゴールドマン・サックスを辞めた直後に、知人と一緒にお金を出し合って、クリエイターにキャッシュフローとして毎月支払う仕組みを作ったんです。毎月まとまった額を月給として5年間支払う。その代わりに10年分の売り上げの一部を頂くという形です。

これにはひとつ問題があり、投資家が途中で気が変わってしまい、支払いを中断すると漫画家はまた厳しい状況に置かれてしまう。だからといって、最初にまとめて払う方式にすると資金効率が悪くなってしまうので、原資となるアセットを買って、利息分・配当部分を漫画家に支払っていく仕組みにして、3年前に始めました。だけどこれが難しい!つい最近も2人支援したんですが、2人とも辞めてしまいました。佐渡島さんの解釈だと、ハングリー精神が無くなることも理由の一つみたいです。結局、人を10年縛るのは難しいですよね。

けんすう:僕はハングリー精神はあまり関係ないと思っている派で、スタートアップ企業も10億円調達しても、みんなが遊ぶわけじゃないですよね。だけど確率論が重要で、100人に分配する場合は結構な規模のファンドにしないといけないわけです。クリエイティブの面で考えると、ヒットが出るのは100人に1人よりも確率は低いかもしれませんが。株式会社の場合は駄目でもトントンまで持っていけたり、年商3億円までいけるときもあります。でも、クリエイターで年商3億円を売る人はほとんど居ないはずで……。なので、1,000の作品に張れる規模までいけたら成立するのかもしれません。

田内:そうですね。ハングリー精神に関しては、昔は一発当たればいいやって感じだったんですけど、今はウェブ漫画が増えてきて変わった印象があります。ウェブ漫画の世界では何人かで共同で漫画を描くんです。自分で一発当てるよりも、ウェブ漫画のスタッフとして働いた方が収入も安定するから、その道を選ぶ人も多いようです。

けんすう:ウェブトゥーン系に行っちゃうんですか?

田内:一発当てるよりも、ウェブトゥーンに行っちゃうようです。

けんすう:確かに今の日本だと、集英社や講談社のような一流の会社がクリエイティブに張り続けていたとしても、10年に1本くらいの頻度で『進撃の巨人』みたいなヒットが出ればいいというのが現実ですよね。

田内:僕らが作ったファンドでは対象となるのは2人の漫画家だけだったんですが、本当は何百人、何千人に張らないと当たらないってことですかね。

けんすう:投資する資本家目線で見たら、そんなに当たる確率が低いなら普通の株式会社に投資しようと考えるので、クリエイターはファンと投資家の間ぐらいを狙わないといけないんでしょうね。

田内:まさにそこですよね。当時は半年に1回、報告会をやっていました。半年間どういうことを頑張ったとか、鬱になってしまって描けなかったとか。それを漫画家が活動報告してくれる会があって、漫画が描けなかったとしても、投資家たちはクリエイターとかけ離れた仕事をしているので、話を聞くだけでも人生の一部を交換している感覚になるんです。そういう意味ではファンと投資家の間にいたと言えると思います。

けんすう:僕もアル社の裏側を見られるコミュニティ「アル開発室」で毎日投稿しているんですが、現在では2,000人くらいが、毎月1,000円を払ってくれています。わりと馬鹿にならない金額になるんです。クリエイターもみんな同じような仕組みでやればいいと思っているんですが、毎日投稿するのは結構難しいんですよね。

狙って取った!?けんすうのAmazon書籍販売1位

田内:僕ね、けんすうさんが凄いと思ったのが、著書『物語思考』でAmazon総合1位を狙って取ったという話です(【保存版】Amazonで総合1位を取るためにやったことの紹介をするよ)。本当にAmazonで総合1位になる方法が書かれているんですよ。それを読んで真似したら僕も総合1位をとれちゃったんです。その方法を見つけたことも凄いんですが、そこに課題設定をしたところが凄いと思うんです。そもそも普通の人は1位が取れるとは思わないから。

フィギュアスケートでも、今でこそ4回転をみんなが狙うじゃないですか。でも、昔は2回転でも凄いと言われるレベルだった。この違いは今と昔で人間の能力が大きく変わったってことじゃないと思うんです。成功した人がいるから、周りの人もその目標が実現可能だと信じられるようになって、皆がレベルアップしていくんだと思います。普通の人は、誰もやったことがないテーマを設定できないはずなので。

例えば「2の1億乗を計算したときの1の位を求めよ」という問題と「円周率の1億桁目を求めよ」という問題があったとしますね。前者は実際に簡単に解ける方法があって、算数の問題として出題もされるんですが、後者はコンピュータじゃないと解けないから出題されないんですよ。テストで前者のような問題が出た場合は、「絶対簡単に解ける方法があるはずだ」と思えるから取り組むことができる。ところが世の中にある問題は解き方があるとは限らないから、簡単に取り組もうとは思えないんです。「Amazon総合1位を目指す」って確実な解き方があるかどうか分からないじゃないですか。だけど、けんすうさんは「きっと誰でもできる解き方があるはずだ」と思ったところがすごいです。

けんすう:ありがとうございます。毎日何かが1位になっており、書籍のランキング上位はしょっちゅう入れ替わっているので、年間365冊近くが1位になっている、とも言えるわけです。やり方はあるんだろうなと考えたんです。単純に本を売るには書店に並べる必要がありますよね。でも部数は予約数が多くないと増やせない。発売前に出版社が何を基準に意思決定をするかというと、予約数です。仮に書店で1万部を売ろうとすると、予約を獲得して1万部を用意しなきゃいけない。でもAmazonのランキングで1位を取るだけなら、1日に数百冊売れればいいわけです。24時間1位をキープすれば、新聞広告でもAmazon1位と宣伝できますし、敷居の低いわりにはリターンが大きいなって考えました。Amazonで1位を獲得すれば出版社も新たに刷ってくれますしね。

田内:解き方を見つけることより、どこにゴールを設定するかが難しいですよね。だから普通は、解き方を探しながら自分の実現可能なことがわかってきて、現実的なゴールに変えていく。でも、けんすうさんはAmazon1位を最初から狙うから凄いなと思ったんですよ。『物語思考』も読ませてもらったんですが、具体的な数値を目的にするよりも、どういう人になりたいかをイメージするのを目的にすると書いてあって、凄く腑に落ちました。さっきの話で言えば、普通の人だとAmazon1位を獲得するのは難しいので、取れる人をイメージしてから狙えばいいのだなと。

けんすう:そうですね。1位を獲れている人が毎日いると思ったのと、周りの人に聞いたら全員が1位を取っていたんですよ。「箕輪さんが編集した本なら、どれぐらいが1位を取れますか?」って聞いたら、ほぼ100%が1位を取っているよって言われたんで、これは自分でも狙えると思いました。周りの人たちができているから狙えたと思います。

田内:『物語思考』で書かれているように、周囲の環境や人に引っ張られるということですね。

Next: 投資に関しては、日本はマジでヤバい?

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