今回解説する企業は、ルネサスエレクトロニクス<6723>(以下、ルネサス)です。ルネサスは、日本を代表する半導体製造メーカーであり、近年業績を拡大させています。一方で、2010年代の初頭は赤字が続く厳しい時期もありました。なぜそこから経営を立て直せたのか?現在の好調の要因は何か?そして、今から投資しても良いのかを考えていきます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)
プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。
前途多難な創業期
ルネサスは半導体メーカーです。
東京エレクトロンなどが製造装置を作る会社であるのに対し、ルネサスは完成品としての半導体を生産・販売しています。
半導体と聞くだけで、エヌビディアに代表されるようなAI半導体ブームの中にある企業か?と思われがちですが、ルネサスの強みはAI関連ではありません。
車載向けの半導体やマイクロコンピューターと呼ばれる関連部品、その他産業・インフラ・IoTなどの領域を得意としています。
今でこそ、大きく業績を拡大していますが、創業当初から大ピンチでした。
ルネサスが誕生したのは2010年です。NECの半導体製造部門から独立したNECエレクトロニクスと日立製作所と三菱電機の半導体部門を合併したルネサステクノロジを統合することで誕生しました。
設立の大きな目的は3つです。
- 海外勢への対抗
- 各社の経営再建
- 開発から製造の時間短縮
しかし、結果的にはそのいずれの目的も達成されることはありませんでした。
(1)の海外勢との競争には敗北しています。下の図を見てください。
出典:総務省 我が国のICT産業の世界的な位置付けの推移
世界の売上高が増加する中、日本の売上は横ばいからやや右肩下がりです。世界シェアで見れば低下する一方でした。
(2)の経営再建も実現しませんでした。元々生産性が高い事業同士の統合ではありませんから、先にお示ししたように、創業直後から赤字が拡大します。
(3)についても同じく、ただただ生産拠点や人員だけが増え、製造時間の短縮効果はありませんでした。
こういった流れの中で、営業赤字は568億円に拡大。2013年は自己資本比率が10%まで下落し、統合からわずか3年で経営危機を迎える状態でした。
そして、当時国営団体だった産業革新機構がルネサスの株式を取得し、実質的な国有企業となりました。この資金注入を受けて、2014年にリストラや生産ライン、工場の削減を一気に進めます。生産拠点を22箇所から9箇所へ集約し、人員は4万8,000から2万1,000人に大きくコストカットを行います。
結果的には670億円の黒字となり、自己資本比率もひとまず約30%まで回復します。
黒字となったものの受けたダメージが多く、苦しい創業期だったのです。
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