言うまでもなく、原油や石油は、日本経済を支える根幹のエネルギーであり、国民の日常生活を支える必要不可欠な資源である。非化石燃料を使った自然エネルギーの活用は、福島原発などの影響もあって進んでいない。
もともと、日本の化石燃料の海外依存度は非常に高く、2019年のデータでは原油が「99.7%」、LNGが「97.7%」、石炭が「99.5%」となっている。日本の「エネルギー自給率」は極めて低く、OECD (経済協力開発機構)加盟国35カ国中ワースト2位となっている。
実際に、ホルムズ海峡封鎖を想定したリスクマネジメントを日本政府が行っているのか、と言えば大いに疑問と言っていい。過去に、衆参両院で野党などがホルムズ海峡封鎖時への対応策を質問しているが、まともに答えている事例は皆無だ。おそらく、米軍の傘の下にいることで日本政府ができることはない、と考えているのかもしれない。8か月分の石油備蓄で米国が何とかしてくれる、と考えている節がある。
原油価格はどこまで上がるのか?
さて、実際にホルムズ海峡封鎖の可能性が出てきた場合、原油価格は一体どこまで上がるのだろうか……。
これまでの原油価格の最高値は、2008年4月につけた「1バレル=140.00ドル」だが、きっかけはイスラエルによるイランの核施設爆撃の情報が出たものだったが、ホルムズ海峡封鎖が現実つのものになった場合には、この140ドルを瞬間的に超える可能性はあるだろう。
前述したように、世界の原油の2割がホルムズ海峡を通って、世界中に輸出されているわけだが、単純に供給量が2割減って8割になった場合、価格も2割程度は上昇するかもしれない。仮に、過去最高値の1バレル=140ドルまで上昇した場合、ホルムズ海峡が封鎖されれば、2割増しの1バレル=168ドルになっても不思議ではないわけだ。
現実的にそこまで上昇すれば、鎮静化してきたインフレがコロナ禍を上回る勢いで、インフレ再燃の可能性がある。
しかしながら、今回のイランによるイスラエル直接攻撃では、そこまで原油価格が上昇しなかった。その背景には、「WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)」の原油先物市場が、ホルムズ海峡の封鎖リスクに対して目をつむっているからだとする指摘もある。
そもそもイスラエルがガザに侵攻した時にも、原油相場は落ち着いているように見えた。その背景には世界最大の産油国であるアメリカが、増産サイクルに入っており、アメリカのエネルギー情報局調べによると、2023年の原油生産量は大きく増加しており、1日当たり100万バレル増えたと報告している。
さらに、ロシアによるウクライナ侵攻があったおかげで、世界中の国が化石燃料に対する意識を変えた、とも言われている。例えば、世界第4位の産油国であるカナダは、2024年の生産量を「日量530万バレル」に達しており、前年比の増加量は「50万バレル」と言われる。これは、南米エクアドルの生産量に匹敵している(日経新聞「原油、構造変化で落ち着き、欧米増産 環境重視に陰り」、2024年1月22日朝刊)。
対して、主要産油国で作るOPEC(石油輸出国機構)は、その生産量を大きく減らしており、世界の供給量に占めるシェアを低下させていると言われている。
実際に、OPECとロシアに同調する産油国で作る「OPECプラス」は、ここ数年産油量を日量数百万バレル減らしてきている。要するに、中東の産油国の存在意義が徐々に世界的に低下しており、原油価格の支配力を低下させつつあると言っていいだろう(ウォールストリートジャーナル「『原油100ドル』回避に賭けるウォール街」2024年4月17日配信)。
では、現実にホルムズ海峡が封鎖されたら、原油価格はどこまで上昇するのだろうか……。世界の原油供給の2割を経由しているホルムズ海峡に危機が生じれば、現在の1バレル90ドル弱の原油価格は110から120ドルに上昇するだろうという報道もある(日経新聞「ドルと原油、危うい同時高」、2023年10月16日朝刊)。









