春の大型連休時に1ドル161円台を見て以降、日本の通貨当局が少なくとも15兆円の資金を使って為替介入し、直接的な円安修正を狙いました。為替介入の武器は日本が保有するドルを使うとすれば、あと1回使えばほぼ使い果たすことになり、市場は「武器のない当局」と見れば円売りを仕掛けやすくなります。それだけ今後の円安修正の成否は日銀の肩にかかっていることになります。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年7月19日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
円安修正の成否は日銀の肩に
円安修正の成否は、いよいよ日銀の肩に重くのしかかることになります。先週、米国の6月のCPIが予想以上に改善が進んだために、市場は9割以上9月にFRBが利下げに踏み切ることを織り込み、米国の長期金利が大きく低下しました。これで日米長期金利差はやや縮小しました。
さらにその日、日本の通貨当局がこのチャンスを逃さず、すかさずドル売り介入に出ました。翌日も介入を続けたとみられます。2日間で介入資金を5兆円前後使ってしまったとみられます。18日にも介入を思わせる動きがみられました。春の大型連休時に10兆円弱の介入資金を使ってしまったので、今後、為替介入に使える資金は限られそうです。

米ドル/円 日足(SBI証券提供)
通貨防衛の武器としての為替介入をすでに使い果たそうとしているだけに、ここから円安を修正するうえでは、中央銀行の金利政策に大きく依存することになります。特に市場は米国の9月利下げを織り込んでいるので、あとは日銀の利上げと、FRBの追加利下げの可能性にかかってきます。
武器の威力、ここまでは期待外れ
春の大型連休時に1ドル161円台を見て以降、日本の通貨当局が少なくとも15兆円の資金を使って為替介入し、直接的な円安修正を狙いました。さらに米国のCPI改善で市場は9月にFRBが利下げに動くことを9割以上織り込みました。これで米国の金利が低下し、日米の金利差が縮小しました。
つまり、円安を修正する武器としての米国金利の低下、当局の為替介入が使われた形になりますが、その割に円安修正は限定的でした。1ドル161円台から一旦は157円台前半まで修正しましたが、今週半ばにはまた158円台に戻し、18日にまた介入らしい動きで155円台まで押し上げましたが、すぐに156円台に戻しています。
為替介入の武器は日本が保有するドルを使うとすればあと1回使えばほぼ使い果たすことになり、市場は「武器のない当局」と見れば円売りを仕掛けやすくなります。それでも日米の中銀の関係が良ければ、日本が金利を払ってFRBからドルを借り、それを介入用に売ることもできます。介入資金があるうちは「時間稼ぎ」ができますが、その資金が少なくなると、足元を見られるリスクがあります。