先の衆議院選挙で自公が過半数割れとなったことから、28議席を獲得した国民民主党がにわかに政策運営のキャスティングボードを握るようになりました。実際、石破政権は国民民主党幹部と会談を行い、首班指名や政策面での協力を求めたといいます。その見返りに国民民主党が主張した「手取りを増やす」政策を一部取り入れる「ニンジン」をぶら下げています。
報道によれば、所得課税「103万円の壁」の引き上げや、ガソリン価格でのトリガー条項の凍結解除などを検討している模様で、財務省がそれに伴う税収の減少を試算、どこまで譲れるかの検討をしているといいます。国民や労働者には聞こえが良い対策も、要は税負担を減らせ、といっているだけで、減税論と変わりません。消費税引き下げより「実感」の伴う「手取り」増を訴えたにすぎません。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年11月8日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
「政府を儲けさせるより国民を儲けさせよ」
「政府を儲けさせるより国民を儲けさせよ」。一見、国民の耳には心地よい印象を与えるこの言葉も、実際は誤解を含んでいます。
政府という存在は実体がなく、財政の原資となる税金や社会保険料を政府が国民から預かり管理するだけで、税金の持ち主は国民であって政府ではありません。マンションの管理組合にあたるのが政府で、管理費、積立金が税・社会保険料にあたります。
マンションの管理費や積立金を増やすことは、住民の負担になりますが、それらはいずれ住民のために使われるもので、これが増えたからと言って、管理組合が儲かるわけではありません。むしろ、管理費や積立金の少ないマンションの価値は低く評価され、十分な管理費、積立金を保有するマンションが高く評価される面があります。高福祉高負担の北欧がこれにあたります。
政府が税金や社会保険料を引き上げ、財政資金を潤沢にしようとすること自体は、管理費積立金を潤沢にすることになり、いずれ住民の福祉に回ってくるので、北欧型の高福祉高負担国家になるのであれば、マンションの価値が高まるように、国の価値・評価は高まってしかるべきです。
しかし、日本ではこの管理会社にあたる政治家が、国民のためにではなく、政治家の選挙活動、生活費のために多くの税金を使っていて、それを国民に報告もしないことが問題となりました。つまり、住民のためではなく、管理会社の職員、管理人の関係会社の利益のために使ってしまう「漏れ」が問題となりました。
つまり、国民の税金が政治家の「政策活動費」、旧「文通費」として使われ、これが本来の政治活動のためではなく、政治家の生活費、遊興費に使われていた疑惑が高まりました。これらの使途が明かされず、領収書も求めない中で、不透明な支出が高まっている可能性が指摘されています。
また、安倍政権のもとでは「もり・かけ・桜」のように政治家に近い企業に事業が発注され、利益誘導されたり、一部の支援者のために税金が使われたりして、国民のために使うべき税金が多く漏れ出していたことも判明しました。
「政府」の儲けならいずれ国民に還元されますが、政治家やその関係者の利益のため使われれば、これは国民をだます「詐欺」にあたります。
「税負担減」の帰結は?
国民民主党が言うような「103万円の壁」を引き上げたり、ガソリン価格に関わるトリガー条項の凍結を解除したりすれば、それだけ国民の税負担は軽くなります。
前者によっては約7兆円、後者で1兆円程度の減収になるといいます。マンションの管理費、積立金が安くなって住民の負担は軽減されますが、減った収入の帰結を考える必要があります。
基本は次の3通りです。
1つは、税収が減る分、政府サービスが減る形で、橋や道路の補修、災害復旧に回す資金が減る可能性があります。
2つは国債発行により、将来世代から借金をして現役世代のために使うやりかたで、日本の財政赤字、国債発行高が増えます。
3つは、国民の税負担が減る分、企業や資産家など担税力のある主体から「増税」して補うことです。国民民主党はこれを明らかにしていません。