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トランプは米国版「ペレストロイカ」を目指している?景気後退を容認、ソ連崩壊と同じ道をたどる可能性も=高島康司

<3. 通貨供給量の増加>

財務省が発行する米国債の主要な買い手は「FRB」である。「FRB」は市場から米国債を買い取る。そのための資金は米ドルの増刷によって調達される。このため、連邦政府の債務が増大すると、通貨供給量も必然的に増加する。パンデミックの間、M1は約4兆ドルから20兆ドル以上に増加した。赤丸で囲った部分がバイデン政権成立後の状況だ。

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米国債の利払い費が国防予算を越える

そして、トランプ政権の周辺の人々が特に懸念するのは、国債の利払い費の増大である。以下は非営利団体の「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」が出したデータだ。中央の赤線は国債の利払い費を表す。緑は高齢者医療のメディケイド、黄は国防費、そして青は低所得者医療のメディケイドを表している。

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これを見ると分かるが、2024年から国債の利払い費が国防予算を越えている。いまアメリカの国防予算は、対GDP比で3.5%だ。利払い費はパンデミック対策のバイデノミックスが実施された2021年から極端に増えている。

トランプ政権は、このような状況は「持続可能ではない」と見ている。利払い費の資金を調達するためにさらに国債を発行するが、それが臨界点に達すると米ドルの価値の大幅な下落から極端なインフレになり、金利もパニックレベルに急上昇する。この段階に至ると、米経済のクラッシュを待つほかなくなる。

トランプがやろうとしていることはペレストロイカ

少なくともトランプ政権は、このような認識を共有しているようだ。崩壊のパニックが始まる前に、過剰な国債の発行の必要性がないレベルまで連邦政府の規模を縮小し、また高関税という新たな財源を確保して、債務に依存する必要性のないシステムに移行するという計画だ。これには既存のシステムを解体するための移行期間があり、この間は不況もやむおえないとしている。

トランプ政権のこのような改革を見ると、旧ソ連のゴルバチョフ書記長が実施した「ペレストロイカ」によく似た改革であることが分かる。

1980年代、ソ連経済は停滞し、共産主義に対する幻滅感が広がった。これに対応して、ゴルバチョフ書記長は「ペレストロイカ」、つまりソ連社会の再構築を開始した。当時ソビエト政府は住宅、教育、交通、無料の医療を提供したが、軍事費は国家予算の12%~17%を占め、消費財や必需品の資源を枯渇させた。一方、起業家精神の抑圧により、経済はかなり停滞していた。

このような状況に直面してゴルバチョフは、市場経済の大胆な導入を行う「ペレストロイカ」と、政府に情報公開を進める「グラスノスチ」を実施した。しかし、権力の喪失とソビエト国家の弱体化を恐れた官僚たちは改革に抵抗した。

しかし、ゴルバチョフが社会主義と限定的な市場自由化を融合させようとした試みは裏目に出て、混乱、供給不足、インフレ、生活水準の悪化を招いた。後継者のボリス・エリツィンは、新自由主義の米国経済学者の指導の下、ロシアを中央計画から完全な市場自由化へと突然移行させた。その結果は壊滅的だった。1990年代には経済が50%縮小し、何百万人もの人々が貧困に陥った。

国有資産の急速な民営化は、コネのある内部関係者への産業の投げ売りにつながり、彼らはその何十億ドルもの資金を海外に流した。国富の略奪は、プーチンが権力を握り、新自由主義の行き過ぎを覆し、「ロシア第一」政策を実施して経済回復を促して初めて止まった。

ロシアが改革を開始してから30年後、トランプはワシントンの官僚機構を覆すという公約を掲げて大統領に選出された。ワシントンの官僚機構は、誰が政権を握ろうとも国を支配していると多くの有権者が信じていた「沼地」だった。米国の政治システムに対する幻滅感は高まり、60%以上が国が間違った方向に進んでいると感じていることが示された。連邦政府に対する米国民のこのよな不信感の風に乗り、大統領に就任したのがトランプであった。

そのようはトランプは、まさにアメリカのゴルバチョフと言ってもよい人物である。しかしゴルバチョフの「ペレストロイカ」と「グラスノスチ」がきっかけとなり、ソビエトは74年の歴史を終え、1991年12月に解体した。

トランプ政権が実施しているアメリカの「ペレストロイカ」が、ソ連の解体のような状況にアメリカを追い込むかどうかはまだ分からない。しかし、過激な改革へのあまりに強い反発から、そうなる可能性があることには留意しなけれなならないだろう。

Next: トランプが目指すアメリカとは?改革の余波は世界中へ…

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