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確実に外れる「10月金融危機説」と、遅れて訪れる真のブラックスワン=高島康司

10月金融危機説は的中するか?

これはまさに、ネットで拡散している「10月金融危機説」が現実となる可能性を示唆する事態である。

それというのも、ドイツ銀行は世界最大の75兆ドル(約8000兆円)のデリバティブを保有しているからだ。これは世界のGDP、66兆ドルよりも大きく、ドイツのGDPの20倍に達する額だ。これは、2008年に金融危機拡大の発端となったリーマンブラザースの保有するデリバティブの比ではない。

また現在、イタリア第3位の銀行、モンテ・パスキが大量の不良債権を抱え経営破綻が懸念されている。モンテ・パスキは、企業の債務不履行を対象にした破綻保険のCDSというデリバティブを大量に発行している。こうしたCDSのかなりの割合をドイツ銀行が引き受けていることはよく知られている。

すると、ドイツ銀行が破綻すると、モンテ・パスキのCDSの引き受けも不可能になるので、これがモンテ・パスキの破綻の引き金となる。さらに、ドイツ銀行はギリシャの主要行が発行するCDSのメインの引き受け先でもある。

このような状況なので、ドイツ銀行の破綻は、リーマンショックをはるかに上回る世界的な金融危機を発生させる可能性があり、それが10月にも起こると予測されているのだ。

これまでほぼ毎年のように金融危機の発生が予見されてきた。今年だけでも3月、5月、6月とそのような予測がネットを駆け巡った。これらはすべて外れた。

だが、今回はドイツ銀行の破綻が近いので、世界的な金融危機は起こってしまうのではないかと真剣に懸念されている。このような見方は、大胆な予測が許される在野のエコノミストだけではなく、主要メディアでもそうした観測記事が多くなっている。やはり「10月金融危機説」は避けられないとの見方が次第に強くなっているのが現状だ。

論理的に予測できる危機は起こらない

これはかなり説得力のある予測だ。だが、このメルマガで何度も書いているように、「論理的に予測できる危機は起こらない」という原則が今回も適用できそうだ。おそらくいま世間を席巻している「10月金融危機説」は、起こらないと見て間違いないと思われる。

それというのも、危機が論理的に予測できるとき、関係機関は危機を回避するために全力を尽くすのが普通だからだ。本当の危機とは、危機の規模が想定をはるかに越えているか、または、「ブラックスワン」と呼ばれる想定外の出来事であるかのどちらかである。どちらの場合も、「想定外」の出来事が起こった場合に限られると見たほうが妥当だ。

では今回のドイツ銀行の場合はどうだろうか?対応不可能なほど想定外の出来事なのだろうか?

いや、そのように言うことはできないように思われる。ドイツ銀行の経営難は、すでに何年も前から指摘されていた。いまに始まったことではない。

今回、これが世界的な金融危機の発端となると思われたのは、米司法省による制裁金の巨額さである。140億ドル(1兆4000億円)とは多くの予想を越える金額であった。ということでは、もし制裁金が想定内の規模に減額されると、経営難破綻の懸念も遠のくことは間違いない。

事実、10月2日になると、当初の140億ドルよりも60%も低い54億ドルで米司法省が妥協する可能性があるとのニュースが流れた。市場はこれを好感し、ドイツ銀の株価が急騰した。また、ドイツ銀行の騒ぎのために世界的に下落していた株価も再上昇した。

さらにこれを受けて、ドイツ銀行のCEOは「ドイツ銀行の経営基盤は心配ない」と声明し、市場に安心感をあたえた。また10月3日には、ドイツ銀行は1000人規模のリストラを発表した。

もちろん銀行の経営悪化の原因のひとつはマイナス金利であるが、ドイツ銀行のあまりに高い人件費が一つの要因であることが分かっている。そのため、リストラの断行は危機回避のための重要な方策として市場では受け取られ、ドイツ銀行の株価をさらに押し上げた。

Next: ドイツ銀行の破綻を望まない米司法省、そしてEU当局の「打ち手」

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