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東日本大震災後の3月14日、オプション市場で起きていた「想定外」の事態=高梨彰

3月14日にオプション市場で起きた「想定外」の事態

今一度、東日本大震災直後の市場環境を確かめてみます。まず、大地震・大津波発生により、株価下落が想定されました。しかも、その程度は「恐怖」に支配されてわかりません。「日経平均先物は下がるのだろうけど、どれだけ下がるのか目星も付かない」状態です。このとき、オプションのプレミアムはどうなるでしょうか。

まず「買う権利(コール・オプション)」は相場下落の分だけプレミアムは安くなります。「行使価格」が現在の価格から遠くなるためです。しかし、相場は荒れ模様、「ボラティリティ」は上がっています。この分だけプレミアムは値上がりします。この両者が合わさるのですが、まぁ相場が下落しているので「コール」の価値は値下がりしやすくなります。

問題は「プット・オプション(売る権利)」です。相場は下落しています。「売る権利」のプレミアムは値上がりです。同時に「未来の荒れ具合」も上昇しています。しかも「恐怖」で満ちています。プレミアムは急騰です。この両者を合わせると、プット・オプションのプレミアムは「超値上がり」となります。

しかも、震災直後の相場では、市場参加者は極めて限られます。しかも、日経平均先物オプションなんて、もともと参加者は限定的です。震災前に「売る権利」を与えたプットの「売り手」が、「超値上がり」したプレミアムでも諦めて買い戻そうとしても、新たな「売り手」が出てきません。誰も中途半端な価格でプットを売って、自分が「恐怖」に支配されることなんて望みませんから。

それでも売買を成立させるとすれば、新たなプットの「売り手」は「超値上がり」した価格よりもさらに「超値上がり」したプレミアムでしか売ろうとしないはずです。買戻しを図る元々のプットの「売り手」は、将来への「恐怖」と、自分の損失がどこまで拡大するか分からない「恐怖」で満ちています。

これらが合わさって、震災直後の日経平均先物オプションに通常であればありえないような価格での売買が成立しました。

当時の日経平均は9,000円台。8,500円で売る権利(プット・オプション)のプレミアムは一時10,000円まで上昇する事態まで発展しています。10,000円払って「売る権利」を買い戻すくらいならば、いっそ「権利」を行使させた方がましです。日経平均先物だって0円より安くなることはないのですから。

東日本大震災で得られた大きな教訓

オプションは、権利の買い手にとっては「手数料(プレミアム)を払うのは癪だけど、最大の損も手数料分だけ」です。

一方で売り手は、「常に」プレミアムという名の手数料を手に入れることができます。しかも売買成立時点に確定します。これで相場が動かなければ万々歳です。

実際、オプションのプレミアムは売り手にとっても魅力的でなければ売買が成立しないため、「それなりに魅力のある」価格にて売買は成立します。「オプションは売り」と決める市場参加者が少なからず居るのも、その価値に魅せられるためです。

しかし、東日本大震災のように「めったにない出来事」が起きると、株価下落はもとより、「どれだけ今後動くのだろう」という「恐怖」の値が、それこそ「めったにない」水準まで上昇します。売る権利を与える、プット・オプションの売り手は、常に「めったにない出来事」への備えをしておくことが必要です。

Next: 最大のリスクは「恐怖」。投資家が備えておくべきこととは

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