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「老後の心配」が先走り、本当のリスクがないがしろにされる保険業界の闇

終身保険「肯定派」「否定派」それぞれの考え

確かにそれは一理ある。
例えば30歳女性が1000万円の終身保険に加入するとした場合、30年間で約600~650万円程度の保険料を払うことになるわけだが、仮にこの保険を60歳以降に解約するとしたら、約700万円以上の解約返戻金が発生し、どちらにせよ損しない状況になるという話である。

これに対し、「終身保険に騙されるな!」という論者の言い分は、「30年以内に解約したら損をするではないか。」「保険には死亡保険や代理店への手数料分が含まれているため、自分で資産運用をしたほうが効率がいい。」あるいは「そもそも30年後以降の貨幣価値がどうなっているかもわからないのにやるのは、逆にリスクだ。」といったものがある。

これはこれで確かに正論である。終身保険の多くはインフレには対応できないため、解約返戻金が確定しているのはリスクではある。(一部対応している保険はある。)
ただ、これらの理由はあくまで氷山の一角であり、個人的には、まったく本質をついていない議論にしか見えない。

終身保険の本質的な問題とは何か。終身保険で本当に議論しないといけないこととは何か。

それは、「掛け捨てに比べ、死亡保険金が少額になる」ということである。

終身保険は確かに万能性を兼ねてはいるが、一方で掛け捨てに比べて保険料が高額になる。保険料を無限に払える人であれば問題はないが、普通の家庭が月々支払える保険料には限界がある。つまり、終身保険を手厚くすれば、その分死亡保険金は少なくなるし、本当に万が一が起きた場合、家族は路頭に迷う可能性が高くなる。

これは持論ではあるが、保険に加入する以上、絶対に死守しなければならないのは、世帯主の死亡保険金額である。世帯主が死亡して、遺された家族が生きていけなくなったら、どれだけ老後の心配をしてもまったく意味がない。

終身保険に魅了され、死亡保険金をおろそかにしているのではないか。
20年後30年後の話だけが先走り、本当のリスクを見逃してはいないか。先ほどの統計によって、私の推測は現実味を帯びている気がしてならない。

保険とは、「家族を守るためのもの」であり、そのためにお金を払う商品である。

そして、「家族を守るためのお金」は、決して2000~3000万円などではないと思っている。もちろん家族構成にもよるし、価値観にもよるだろう。しかし、終身保険の加入率の増加とは裏腹に死亡保険金額が減少しているこの状況を見て、素直に「人によるから。」とは言い難いのも現実である。

日本の保険業界の闇は、本当はこういうことなのではないだろうか。

落合王子のマネーアカデミー』2015/8/24号より抜粋
※太字はマネーボイス編集部による

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