人民元安を責められると身動きが取れない
中国にとってもう1つ困るのは、この為替批判が、国内の金融政策を制約しかねないことです。
習近平国家主席にとって懸案だった中国の過剰債務問題を軽減しようと、債務の圧縮を進めてきたのですが、これが思わぬ景気悪化をもたらし、今年春以降はまた景気重視にかじを切り替えました。とはいえ、財政を拡大すればまた債務が増え、金融緩和をすれば、人民元の下げにつながります。
そこで、人民元の下げを回避するよう、利下げではなく、銀行の預金準備率引き下げで貸し出し増を促し、流動性を高める苦肉の策に出ました。それでも金融緩和に違いなく、結局人民元はやや下落しました。それでも、通貨の先安観を高め、資本流出を誘うものでなければ、人民元の多少の下落には目をつぶり、景気支援を優先したいところでした。
ところが、1ドル7元近くまで下げ、米国がこれを批判するようになると、通貨そのものよりも、それ以前に人民元安につながる金融緩和策もとりにくくなります。
かといって財政政策に頼れば、また債務増となって将来の爆弾を抱えることになります。人民元安を突かれると、国内の政策運営にも支障をきたすことになります。
その点、インターポールのトップを呼び寄せ、海外で脱税するものの情報をとり、さらに映画俳優の脱税で罰金を取るようになっているのも、債務問題で身動き取れない状況にある財政で、罰金も含めた税収の強制的な強化を図っているとの解釈も可能です。
やりすぎは米国にも跳ね返る
トランプ政権の対中戦略で分かりにくいのは、中国経済の美味しい部分を米国が寄生虫のごとく吸い尽くせるよう、中国の門戸を開放させる必要があり、そのために関税や知財権侵害の嫌疑を使って中国を揺さぶっています。
米国の金利高も、対中国戦略の一環、つまり中国の人民元や株価の揺さぶりを意図した面もあります。米中貿易不均衡が解消される可能性はまずなく、期待もしていないはずです。
しかし、習近平主席も国内のメンツを考えれば、安易にトランプ氏の脅しに屈するわけにはいかず、対米報復措置も必要になります。
その結果、思わぬ形で米中通商戦争がエスカレートするリスクがあります。トランプ陣営の「新冷戦」では、中国をほどほどに太らせておいて、そのうえで美味しいところをいただく作戦のはずですから、中国経済を殺してしまっては元も子もありません。