仮想通貨の価格はどこまで上がっていくのか
大前:現在(2018年11月6日現在)、仮想通貨の相場はいまだに2017年12月の水準に戻ってはいませんが、私はそれに対して、特に悲観はしていません。仮想通貨の技術が世の中を良くするものであることは、疑いの余地がないからです。
それでは、「価格はどこまで上がっていくのか?」ということに関して言うと、仮想通貨やブロックチェーン技術に対する需要が上がったからといって、必ずしも市場で順当に価格が上がっていくとは限りません。実は、市場価格は「投機的にどのようにお金が入ってくるのか?」ということと大いに関係があります。
これは世の中を見渡してみればわかります。たとえば原油がそうです。かつて1970年代にオイルショックがあり、「石油がなくなるのではないか」というので、人々はパニックに陥りました。その後も世界経済は成長を続け、多くの国で生活水準が向上するとともに、石油への需要も増えました。しかし価格は一時期、1バレル100米ドルを超えたことがあるものの、現在では70米ドル前後で推移しています。つまり、需要と価格がリンクしているとは言えません。
それでは、何が価格を上げた要因だったのかというと、投機マネーです。「なくなるかもしれないから、先に買っておこう」という投資家の心理が、値段を押し上げたのです。最近だと、サブプライム・ローン問題が表面化した際にも、原油価格は大きく上昇しましたが、サブプライム問題と原油自体には、相関関係はありません。投機マネーがどこからどこへ流れたのか?ということです。こうした心理的な要素や社会情勢なども、価格に大きな影響を与えているのです。
【現代は、実体経済とバーチャル経済との差が大きくなっている】
俣野:価格は、必ずしも需要と供給から決まっているわけではない、と。
大前:はい。リーマン・ショック以降、原油だけに限らず、金や銀などといった現物資産に対する需要も上がりました。一般に、不景気などで社会が不安定化すると、金などが値上がりする、と言われています。しかし、現在は金であってもペーパーゴールドと言って、所有権を売買するか、もしくはETF(金価格連動型上場投資信託)やCFD(金のトレーディング)などによる取引が主流です。
もちろん、実物の金の延べ棒や金貨を購入することは可能ですが、コストがかかります。現実的に言って、保管場所や鑑定の問題、税金や手数料など、一般の方が気軽に所有できるものではありません。それを証拠に、先ほど述べたペーパーゴールドの取引高は、実際に世の中に存在している金の数十倍に達している、と言われています。こうした動きは、米ドル紙幣なども同様です。実物よりも、市場で取引されている量のほうがずっと大きいのです。
このように、今、私たちが生きている世界の経済とは、実際に見ているものよりもはるかに巨大で、とてつもない金額になっています。2017年12月の仮想通貨の価格が大きく上がった際も、仮想通貨の技術的な問題云々と価格は比例していません。投機マネーが入り込み、価格攻勢を行なった結果です。実体経済の価格と、市場で付いている価格とは、必ず乖離しています。とはいえ、当時の仮想通貨の上がり方は異常でした。それで、調整が入ったのです。
こうした、実体経済とバーチャル経済の差が大きくなっていることが、現代市場の特徴であり、マネーの動きです。仮想通貨がそうした市場の洗礼を受けたのが、2017年の年末から18年の念頭にかけて起こった、巨大なマネーのうねりでした。ある意味、あの時に仮想通貨は、金融商品として正式に市場から認知された、と言ってもいいのかもしれません。