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田中角栄も陥ったジレンマ。中国経済に立ちはだかる「投資の壁」=三橋貴明

投資の壁(2)供給過多解消のための投資抑制が逆に需要を減らす

中国を悩ませる供給能力過剰問題。個人消費が拡大しない理由

中国経済の「投資過剰」あるいは「供給能力過剰」は、今や世界的に問題視されている。ノーベル経済学者のポール・クルーグマン教授は、2015年9月7日の現代ビジネスに掲載された「中国崩壊と世界同時不況 私はこう見ている」で、中国の過剰投資問題について、

中国は‘08年のリーマンショック後、ただでさえ多かった投資を、政府主導でテコ入れし、無理やりに増やしました。それまでは投資がGDPの40%強を占め、これでも異常な水準でしたが、そこからさらに50%近くまで持ち上げたのです。

その結果、投資が異様なまでに過熱してしまった。一方で消費はわずか30%ほどに過ぎません。アメリカでは逆に消費の割合が70%を超えている。

こうした投資による旺盛な成長を見込んで、各国のマネーが流れ込んでいたのですが、無理矢理の投資が長続きするはずがありません。成長が鈍化するなかで、それが一気に逆流している。
出典:「中国崩壊と世界同時不況 私はこう見ている」(現代ビジネス)

と、筆者と同じ認識に基づき、中国経済について解説している。

中国の名目GDP(百分比)の推移

中国の名目GDP(百分比)の推移

図の通り、中国の総固定資本形成(民間住宅+民間企業設備+公的固定資本形成)がGDPに占める割合は、何と46%にも達しているのだ。

反対側で、2004年には4割を超えていた個人消費支出が、13年には約36%にまで落ち込んでしまった。ちなみに、日本の個人消費がGDPに占める割合は約6割で、アメリカはクルーグマン教授の言う通り、7割だ。中国が極端なまでの「投資依存経済」と化していることが理解できる。

「投資が経済の中心だったのは、日本の高度成長期も同じでは?」と、思われたかも知れないが、そんなことはない。日本の高度成長期に投資がGDPに占める割合は、高くても35%だった。現在の中国は、明らかに投資依存が行き過ぎている。

これほどまでに個人消費がGDPに占める割合が小さく、逆に投資のシェアが拡大してしまっているわけだ。中国経済が過剰な供給能力を抱えてしまったのは、あまりにも当然である。

ブリュッセルに本拠を置く欧州政策研究センターのダニエル・グロス所長は、中国の資本・産出量比率が爆発的な上昇軌道にあると説明。資本・産出量比率とは、「1単位の産出(GDP)を生み出すのに、どれだけの資本を必要とするのか?」という意味である。

中国の資本・産出量比率は、驚くべきことにアメリカをも上回る伸びを示している。分かりやすく書くと、中国はアメリカ以上に、「1の産出を生み出すのに必要な資本が増え続けている」状況になっているのだ。

アクセルを踏んでも、踏んでも、スピードがなかなか上がらない。と書けば、分かりやすいだろうか。

欧州政策研究センターによると、中国の資本・産出量比率が現状の水準で安定するだけでも、GDP1%分の減少要因になってしまうという。GDPが伸び悩むと、中国は更なる需要減少に見舞われ、供給過剰の問題は悪化の方向に進むことになる。

供給過多の中国経済、解消しようにも八方ふさがりで打つ手なし

ポイントは、総固定資本形成(投資)はGDPの需要項目の一部であり、同時に供給能力を強化することで「生産」の規模の拡大を可能とするという点だ。資本・産出量比率が極端に上昇しているということは、中国は投資により供給能力を高めても、GDPが上昇しにくい環境となっていることを意味する。理由は、単純に供給能力が需要に対して過大になっているためだ。

だからといって、中国が投資を縮小させると、それもまた「需要縮小」になる。結果的に、供給能力過剰問題は解決しない。投資を減らすことで需要(GDP)が小さくなったとしても、既存の供給能力は消えない

過剰になった供給能力は、バブル崩壊後の日本のように、削減される運命にある。とはいえ、現在の中国の企業が供給能力を削る、つまりは「リストラ」をすると、失業者が増える。失業者は消費を減らすため、需要が十分に伸びず、やはり供給能力過剰は解消しない

また、企業がリストラを始めると、各種の投資が減っていく。ここでいう「各種の投資」とは、総固定資本形成、つまりはGDP上の投資という需要を意味する。リストラの蔓延で企業や家計が設備投資や住宅投資を「先延ばし」するだけで、中国の投資は縮小していき、やはり需要不足が終わらない。つまりは、供給能力が過剰という問題もまた、解決されることはないわけである。

現在の中国経済の失速は、同国が「投資の壁」に衝突したことを意味しているのである。

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『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』Vol.334、Vol.335より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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