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また忖度。勤労統計「データ改ざん」で露呈した見せかけの賃金上昇と雇用改善=斎藤満

なぜデータ操作は起きたのか?

では、なぜこのようなことが起きたのでしょうか。

アベノミクスを実施してから5年が経過しても、依然として高まらない賃金に、政府のいら立ちが高まっていましたが、これを厚生労働省の役人が、政府への「忖度」をして「成果」をでっち上げたのではないかと見られています。

つまり、もともと許されない「抽出」サンプルのところに、さらに賃金水準が上がるように調査サンプルを選んだ可能性です。

その点、サンプルの入れ替えをするにしても、もう少し頭を働かせて4月分から実施していれば「春闘」の成果と勘違いさせることはできたかもしれませんが、賃上げの時期でもない1月から変えてしまったために、「偽装」がばれる結果となりました。

この「毎月勤労統計」はGDP(国内総生産)の所得を推計するうえで利用される極めて重要な、いわば基幹統計です。それだけに、統計の不自然な動きは看過できません。実際、統計の齟齬が露呈してから、内閣府はGDP統計の「雇用者報酬」という重要な所得データを修正せざるを得なくなりました。

この結果、アベノミクスの成果と喧伝された「雇用賃金の改善」のうち、少なくとも賃金の改善については政策効果を主張できなくなりました。アベノミクスを6年続けても、労働者の賃金が上がらない、というアベノミクスの実態を突きつけられたことになります。

雇用改善も怪しい

では、政府の言う「雇用の改善」はそのまま受け止めてよいのか。これも「否」です。

総務省が毎月公表している「労働力調査」で、日本の雇用状態、失業の実態が紹介されているのですが、この数字も極めて「不自然」なのです。

例えば、直近のデータである昨年11月の数字を見てみましょう。総務省の「労働力調査」によると、この月の完全失業者数は168万人となっていて、失業率は2.5%と、絶好調経済を誇る米国の失業率3.9%(昨年12月)をも大きく下回っています。

ところが、厚生労働省の「一般職業紹介」統計を見ると、11月の「有効求職者」数は171万5千人となっています。この数字は、仕事のない人、職を失った人が「ハローワーク」に行って、失業保険申請に行き、このうち失業保険の受給資格のある人の数です。失業保険をもらえる人は当然「失業者」ですが、総務省が言う「完全失業者」168万人は、ハローワークに行って失業保険をもらえる人より少ないのです。

これはどう見ても不自然です。ハローワークに行かないで職探しをしている「失業者」もかなり多いはずなのですが、総務省はこれを把握していない形になっています。実際、総務省の言う失業者はハローワークで失業保険をもらう人より少なくなっていますが、こんなことはまず考えられません。

総務省は調査に当たり、各都道府県が独自に調査していることになっていますが、現実にはハローワークのデータから失業者を転用しているだけとしか見えません。しかし、失業保険は受給期間があり、それを過ぎても仕事が見つからない場合、失業保険がもらえないならもうハローワークにはいきません。

また失業保険受給資格は65歳までなので、65歳以上の失業者はハローワークに行っても失業保険がもらえないので、別ルートで職探しをするケースが多いのですが、彼らもほとんど把握されていません。米国の例でみると、失業者の数は「失業保険受給者」数の約3倍もいます。失業保険をもらえない失業者のほうが多いのです。日本ではこれがゼロとなっています。これはあり得ません。

このように、賃金ばかりか、政府が言う雇用の改善についても、現実離れした「誇大広告」となっています。雇用も賃金も政府が言うほど増えていないことは、財務省の別の統計からも確認できます。

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