2%の物価上昇は例外的
もともと日本では消費者物価が2%を超えて上昇することは極めてまれで、最近では89年から90年にかけてのバブルのピーク時に一時的に生じたことはありますが、それ以外では2%を達成したことはありません。つまり、歴史的に極めてまれな事態を目指していることになり、当然無理がかかります。
実際、日銀は90年代以降、しばらくは「プラス」のインフレ率を目標にし、これが実現したとしてゼロ金利を解除して利上げに出たこともありました。これが次に「1%」を目標とするようになり、安倍政権になって2%目標に引き上げられました。
では、なぜ政府日銀は2%という過大な目標を設定したのでしょうか。それには、2つの要因かあったようです。
1つは、為替要因です。日本では長年円高傾向があり、民主党政権時代にはドル円が70円台に定着して、家電業界など、製造業の経営を圧迫していました。財界から強い円高回避を求められていましたが、その点、欧米が2%の物価目標を目指す中で、日本だけが1%など、低めの目標にすると、「購買力平価」の面から円高を容認する形になってしまいます。
つまり、円高圧力を回避するには、その実現性はともかく、少なくとも欧米と同じ物価目標にする必要があったわけです。
もう1つが財政事情です。財政赤字が大きい状態が続き、国債発行額が増える中で、国債の利払いを低く抑えたいとの事情と、国債の安定的な買い手として日銀への期待が大きかったことです。
金融緩和を続けることで金利を長期的に低く抑え、しかも国債の増発に対して安定的な引き受け手が必要です。その場合、高い目標設定で「半永久的に金融緩和を続けさせる」との思いが財務省にはあったと言います。また国際金融資本も、日銀の金融緩和に便乗して利益を上げようとしていました。彼らも日銀の緩和を歓迎し、そのために高めの目標を設定させたい面がありました。
金融緩和の継続が困難に
日銀がいくら「マクロの需給ギャップが改善」と言っても、「コアコア」の上昇率はゼロ%台前半で動意が見られず、日銀も「長年のゼロインフレのために消費者のマインドがなかなか変わらない」点を認めています。
また、政府みずから携帯料金引き下げを提案するなど、賃上げが難しい分、コストを下げて実質賃金を押し上げることを考えるようになりました。これも物価上昇を抑制します。
今回も大幅な物価見通しの引き下げをしたことから、記者から追加緩和策が無いのでは、と問われ、総裁は「非伝統的な手段はいくらでもある」と強弁しました。
しかし、現実はそうではありません。さまざまな「制約」が出てきました。