ガバナンスの不在が自らの強みを「情弱ビジネス」に悪用する結果に
それでも、上場したときはそれなりの業績を出していたので、それなりの価格で株を売ることができました。
しかし、状況は悪化の一途をたどります。
保険事業を例にとっても、人口が減少する中で黙っていたら衰退待ったなしです。限られたパイを奪い合い、国内の競合がひしめき合います。
保険などの金融商品は簡単にコピーできるため、商品性で差別化することは困難です。そのため、鍵を握るのが「営業力」と「コスト競争力」です。
コスト競争力ではネット保険が圧倒的な優位性を誇ります。かんぽ生命はここで太刀打ちすることはできませんから、残った営業力が決め手です。
ここに関して、他社には真似することのできない強力な強みを持っていました。全国2万の郵便局網があったからです。しかも、郵便局と言えば「身近で安心」というイメージがあります。
本来この強みをうまく活かせば良かったのです。当たり前の商品を当たり前に売っていれば、それなりに買う人がいるでしょう。「ほけんの窓口」が店舗数を増やし続けているのを見れば十分に可能だったはずです。
経営陣は営業員任せにするのではなく、どうすれば当たり前に保険を買ってもらえるかを考えたマーケティングを展開するべきでした。
ところが、あろうことかこのイメージを逆手に取ったビジネスをしてしまいます。それはすなわち「情弱ビジネス」です。昔から馴染みのある高齢者を「カモ」にして、必要のない契約を結ばせる方向に行ってしまいました。
経営陣は「そんなことをしろと言った覚えはない」と言うでしょう。しかし、どんな顧客がいるかを把握せずにノルマだけを押し付けることは、遅かれ早かれこうなることは目に見えていたはずです。
そもそも、外部から来た経営陣が顧客のことを把握できているはずがありませんでした。彼らは自分の任期を「無難に」全うできればそれで良いのですから。
最近のトレンドにあるESG投資の「G」はガバナンスのことです。(「E」は環境、「S」は社会。)これは、企業の業績に直結し、投資家にとって最も重要な項目だと考えます。郵政グループはここが全く欠如しているのです。
ゴキブリは次から次に…
株価は上場3社ともに下落の一途をたどります。配当利回りは5%に近づき、買いたくなる投資家も少なくないでしょう。
しかし、私は全く買う気にはなれません。
ガバナンスの効いていない会社は、次から次へと問題が出てきます。まして従業員25万人(グループ全体)を抱える状況で、全体像を把握するにはあまりに時間がかかり、改革を実施できるとしてもずっと先のことになるでしょう。
台所にゴキブリが1匹いれば、その後に仲間がいっぱい出てくるものだ
ウォーレン・バフェット
郵政グループは良い会社でもなければ、劇的に安くもありません。長期で持つメリットは全く見いだせないのです。
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『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2019年8月1日号)より
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。