制度の維持と水準の満足度は二律背反
もともと年金制度を維持しようとすれば支給額を抑えなければならず、支給額を確保しようと思えば制度が維持できないという「二律背反」の面があります。
今回の検証でも、現役世代の手取り収入に比べて、年金受取額は現在の61%強から、30年後には良くて51%台、下手をすれば40%台まで低下します。
これは、「マクロスライド」と言って、年金支給額を徐々に抑え込む仕組みによります。通常であれば、賃金水準や物価が上がった分、年金支給額もそれにスライドして増えるはずだったのですが、それでは年金制度を維持できないとして、物価や賃金上昇時には、そのままスライドさせずに、例えば物価が1%上がっても年金は0.1%しか増やさない、などとして、年金の改定を抑え込む仕組みです。結果的に年金は徐々に目減りします。
そのために現役世代の手取りに比べて、年金支給額が30年後には半分とか半分以下になるのです。
年金制度を維持しようとすれば、支給額が年々目減りし、年金生活者の生活は毎年切り詰めていかざるを得なくなり、若い人ほど、条件が悪くなるのです。このため、共産党など野党からは年金を目減りさせる「マクロスライド」を止めろと提案されるのですが、政府は「馬鹿げている」と言って相手にしません。
「100年安心」とは、無理やり「制度を維持する」こと
政府の言う「100年安心」は、年金生活が100年間保証されるのではなく、年金制度が100年もつ、というもので、その間、年金生活者はどんどん年金が実質減額され、生活は苦しくなる仕組みになっています。
水準を落とさなければ、年金制度は維持できない、というのが政府の言い分です。
政府にしてみれば、年金額自体は今の22万円から減るわけではなく、むしろ多少なりとも増えるといってごまかしていますが、その間に物価は上がり、世間の賃金が増える中で年金が取り残され、相対的に減り、目減りすることは表に出さないようにしています。
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