車谷代表交代の背景
さらに、今回の東芝買収提案をめぐっては「利益相反」が問題となっています。そもそも、なぜ、車谷氏の辞任に至ったのでしょうか。
東芝は2部降格後、18年4月に車谷暢昭氏を社長兼CEOとして経営陣に迎え入れましたが、今回、東芝の買収提案をした英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ(以下、CVC)の元代表を車谷氏が務めていたことが問題となっています。
CVCの提案内容は東芝株全株を買い取って非公開化し、外部の影響を受けない経営体制にする内容となっていました。このCVCによる提案の是非を、取締役会として判断することになりますが、CVC出身の車谷氏が代表取締役として参加すること自体が、利益相反関係にあるのではないかと見られたのです。
車谷社長がCVCの元トップだったからといって、直ちに利益相反・違法性があるということにはならないでしょう。しかし、疑念を抱かれやすい状況であると判断されたのです。
また、東芝は幹部社員を対象に「社長の信任調査」を行っています。直近の調査で、車谷氏の支持が落ち、半数以上が車谷氏を不信任とする意思表示をしていたのです。
このままでは、社長続投が難しい状況であったことから、古巣のCVCが「東芝に経営陣の維持を前提」とした買収提案を行い、車谷氏は社長続投するための保身を図ったのではないかと報道されています。
「事業の切り売り・解体」の危機が去ったわけではない
このあたりは、報道ベースでしか定かではないですが、このような疑念が出ること自体が、東芝の経営に対する信頼を喪失している表れでしょう。
現段階では、CVCによる東芝への買収提案はひとまず収束する方向となっています。
しかし、東芝から「事業の切り売り・解体」の危機が去ったわけではなく、前述の通り「物言う株主」=アクティビストの意向を汲みながらの経営を継続しなければなりません。
今後も、物言う株主は企業価値の上昇による、自分たちへの利益の還元という要求を求め続けるでしょう。
今後の東芝の将来性は?
東芝は昨年11月に中期経営計画「東芝Nextプラン」を公表していますが、現段階では、前向きな成長を伴った実現は難しい計画となっています。
同プランでは営業利益が2019年度1,305億円、2020年度見込みが1,100億円でしたが、2025年度計画では4,000億円となっています。2020年度から急速に成長が拡大する計画になっています。
売上高の計画も、2025年度の売上高を4兆円としていますが、現状の東芝には稼ぎ頭になる事業が見当たりません。
利益を積み増すには、事業を成長させるというよりは、手持ちの資産や事業を売却していく「切り売り」による延命の方法を取るしかありません。
その売却候補が半導体を手掛ける、評価額が約3兆3,000億円規模のキオクシア・ホールディングスです。旧東芝メモリで、昨年10月に東京証券取引所への上場を予定していましたが、米政府の取引規制によって先行きの不透明感が高まったとして、上場を延期しています。
半導体分野はバイデン米政権が中国デカップリングを進めている最重要分野です。サプライチェーンの再構築戦略を進めているなかで、マイクロン・テクノロジーやウエスタンデジタルといった米企業がキオクシアの買収検討に入ったと報じられています。
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