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「生まれて後悔」若者急増のなぜ。反出生主義者が嫌悪する“リアル人生ゲーム”の悦び、ダイスを転がす意義をあらためて考えた=午堂登紀雄

どうすれば悩みから開放されるのか?

そして現在は日常生活で直面するほとんどの出来事・状況において、「そもそも悩まない」「悩みに感じない」自分になっています。

では、なぜ今の私には悩みがないのかというと、経験や知識、そして経済力がついてきたことも大きいですが、大きな理由は2つ。「悩むような状況に直面しても、それを課題として認識し解決できるようになった」「物事の受け止め方を自在に制御できるようになった」ことだと捉えています。

これは「自分自身の生存戦略として獲得した思考法」です。物質面、環境面、そしてメンタル面を含め、「自分が快適に生きるには、どういう戦略が必要か」を考えれば、絶望を希望に、オセロのように(とはいかないまでも)、少しずつひっくり返せるものです。むろんそれは程度問題で、人にもよるのですが。

そしてそれは「おまえだからできるんだろ」ということではなく、「意識」の問題です。

意識を持てばアンテナが立つ(マンションが欲しいと思ったらマンションの広告が目に入るようになるというアレです)。アンテナが立てば、自分に必要な情報が入ってくるようになる。認識の仕方が変わってくる。そうやって完璧ではなくても快適な状態に近づけるのであれば、意識してみる価値はあると思います。

反出生主義者の特徴その10:自分の生きづらさの原因を特定できいてない

彼らとやりとりしていて不思議に感じたのは、そこまで「生まれたくなかった」と思うほどの経験は何か気になり、「何があったのですか?」と聞いても、誰も答えてくれない点です。答えがあったとしても、「努力は嫌い」とか「自分の容姿が嫌い」といった好き嫌いの感情だけで、そこまで壮絶な不幸体験ではない。

言いたいくないだけかもしれませんが、反出生主義者の多くは、実は絶望するほどの苦難に遭遇したことがない可能性があります。

もちろん中にはいると思いますが、実際には逆境をした人ほど、生きていることに感謝し、生きることを切望するような気がします(気がするだけです)。

つまり、おそらく漠然とした窮屈さ、不満、生きづらさから来るものだと思いますが、それでは反出生を主張する根拠としては弱い。だから、それを他人の不幸、たとえば誰か知らない人の事故や病気、貧困などで代弁しようとしているのではないか。

ちなみに私の息子が発達障害であることもあり、その流れで私自身も発達障害やいじめ・虐待問題に関与しており、当事者の苦痛が理解できないわけではありません。知人が自殺した経験もあります。しかし、他人の状態だけを表面的に見て不幸だと決めつけるのは、一方的過ぎるように思います。

それで10年ほど前、当時私が親交があった女性起業家の話を紹介します。彼女は20歳の時に病気で全身麻痺が起こって植物状態になったことがあり、医者からは回復する見込みがないと言われていたそうです。頭はしっかりしていて目も見えるのに、腕も足も、指すらピクリとも動かない。もちろん何も話せないし起き上がれないし歩けない。自分で食事もできない。排泄すら誰かにやってもらわなければらない。何もできない、どこにも行けない長い長い1日が繰り返される日々。

彼女は冗談交じりにこう言っていました。「ああ、私はこのまま、何もしないで死んでいくんだろうか。恋人もできず、誰とも一度もセックスすることなく、結婚も出産もできず、病院のベッドの上で一生を終えるのかと思ったら、絶望で何度も泣いたわ」

その後、彼女は奇跡的に回復し、数年のリハビリを経て日常生活を取り戻したそうですが、こうも言っていました。

「手が動く、足も動く。これって何て素晴らしいこと、何て恵まれていることかと思うの。だから失敗したらどうしようとか、他人にどう思われるとか、イヤなことがあったとか、小さなことでウジウジ悩んでいる場合じゃない。やろうと思えば何だってできる。あの時より怖いことなんて何もない。いま生きていること、身体が自由に動く幸せを噛みしめて、毎日を精一杯生きたい」。

彼女の話を聞いて、私もかつてカンボジアのゴミ収集所で働く孤児たち(病院にも行けず、裸足でケガして雑菌が入って成人まで生きられないという、15年ほど前の当時のプノンペン郊外の出来事)を見たときに同じように感じたことを思い出しました。

そして、そんな植物状態という絶望を味わった彼女の言葉の重みと比べたら、それほどの体験をせずして「人生は苦痛だらけ」などという反出生主義者の言葉のなんと軽いことか……と感じないでしょうか。

Next: ネガティブ思考が苦痛を呼びよせている可能性も

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