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「生まれて後悔」若者急増のなぜ。反出生主義者が嫌悪する“リアル人生ゲーム”の悦び、ダイスを転がす意義をあらためて考えた=午堂登紀雄

現状は「生きたい」「生まれてきてよかった」と思う人がマジョリティ

余談ですが、民主主義の原則は「多数決」です。これは確かに不公平や不平等をもたらすこともあるのですが、現状ではこれ以外の方法(たとえば独裁など)の方がもっと悲惨でしょう。中国の新疆ウイグル自治区やチベット自治区、香港で行われている共産党による人権蹂躙を見れば明らかなように。

多数決であるがゆえに、たとえば社会のインフラ・制度などはまず多数派である健常者ありきで作られていきます。しかし、それでは障害者といったマイノリティが生きづらい。そこで彼らを救済すべく、たとえば建物をバリアフリー構造にしたり、障害者支援の枠組みを作ったりします。

これを逆に、マイノリティありきで社会を整備しようとすると、お金もかかるし議論が複雑化するし、時間もかかるなど、社会的コストが大きすぎる。「多数派が正義で少数派は迫害されるのか」ということではなく、社会の効率性の話です。

たとえば、昭和の時代に「すべての駅にエレベーターを設置する」のは財政的にも技術的にも難しいだろうなあというのは想像に難くないと思います。だからまずはマジョリティの健常者がしっかり活動できる基盤を作って、税収がうるおい、法律や規制といった全体の諸制度ができてから、次のステップとしてそれらの課題を洗い出し、解決をしていく方が効率的なリソース投下が可能でしょう。やってみて初めて課題が浮き彫りになるということも多いですし。

そして現状は「生きたい」「生まれてきてよかった」と思う人がマジョリティで、「生まれてこない方がよかった」と思う人がマイノリティだと思います。

では、どこにマジョリティが否定される正当性があるのでしょうか。

そのマジョリティの人たちが、「それはそうだよね」と納得するような論理展開が見られない。そもそも説得力のある思想であれば、誰かがあれこれ主張しなくても、皆が自然にやると思うのですが。そう思えないから、多くの人はやらないのでしょう。

確かに社会が成熟化した昨今では、最初からマジョリティとマイノリティの共存を前提に様々な議論が行われているわけですが、反出生主義はそれすら否定し、「誰も生まれない方がいい」と言う。

とはいえ、日本では思想の自由があるので、個人がどういう思想を発表しても自由です。

しかし、「全ての人は子を産むべきではない」と他人に押し付ける主張を続けた先に、ご本人の人生において何が実現されるのか。将来は選挙に打って出てその思想を実現する、書いたものをまとめて出版する、同じ人たちとつながりコミュニティを作る……そういう動機があるなら、生産的に思います。

しかしそうでなければ、世界的な同意が得られるとはご本人も思っていないでしょうから、得られるものは何か?溜飲が下がる?ああ、それはあると思いますね……。

反出生主義者の特徴その1:自己肯定感が低い

反出生主義者の発言を見ていると、「自分が嫌い」「世の中が嫌い」などと自分を否定し社会を敵視する傾向があるなど、自己肯定感の低さが目立ちます。

自己肯定感が低くなる原因として、幼少期の家庭環境が複雑とか、保護者に問題があり適切な愛情を受けずに育ったきたことが挙げられます。

両親の不和、離婚、虐待やネグレクトといった問題だけでなく、たとえば高圧的な親・過保護な親のもとで自分の意見が抑圧される、自分の考えが尊重されないとかで、思考力を奪われて育った子、親の顔色を伺って自分を押し殺して育った子も、やはり自己肯定感が低くなりがちです。

また、親が見栄っ張りで他人や兄弟と比較したり、テストの点数や成績でガミガミ言うなどすれば、子もやはり他人と比較しては劣等感を抱いたりマウントしたりするようになります。

このように自己肯定感が毀損・破壊されて育った人は、自分に自信がなく、「自分は自分で大丈夫」という自尊感情を持てません。だから「自分のことが嫌い」であり、だから「生まれてこなければよかった」になりがちです。

そうした生育歴の問題から起こる自己肯定感の低さから抜け出すには、本人の自覚と意志が必要です。しかしこの呪縛は強固で、虐待されて育った子が再び自分の子に虐待をするように、負の連鎖に陥りやすいことがわかっています。

だから、自分のいきづらさや不遇な人生だと感じている元凶は、自己肯定感の低さに由来しているのかもしれないと自覚してみること、そしてそれは意識すれば変えられるのだという希望を持つことです。

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