中国では現在、ロボタクシーサービスの試験運行を始めている企業は数社ありますが、面白いのは、その事業化戦略がそれぞれに違っていることです。どの企業も、知恵を絞って、さまざまな方法で事業化を模索しているというのが現在の状況です。これは、逆に言えば、中国の自動運転は、実証実験や試験運行の段階を終え、事業化の段階に差し掛かっているということです。そこで、今回は、ロボタクシーサービスの試験運行を始めている6社を取り上げて、どのような戦略で事業化を目指しているのかをご紹介します。日本も参考になる部分が数多くあります。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)
※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2021年8月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。
ロボタクシーは事業化目前
今回は、ロボタクシーについてご紹介します。
ロボタクシーとは、自動運転車を使ったタクシーサービスです。現状では、L4自動運転技術の車を使って乗客を乗せた試験運行が各地で進められています。
L4自動運転は「一定の条件下での自動運転」なので、その一定の条件の定め方にもよりますが、実際の「公道」を走行すれば、この条件から外れる状況が生まれます。
そのため、安全監視員と呼ばれる乗務員が運転席に乗り、条件下ではハンドルから手を離し自動運転をし、条件から外れると手動運転をし、さらに万が一の場合は緊急停止をするということになっています。
これはロボタクシーサービスの事業化という面では、大きな問題になります。
自動運転の特長は、「運転手が不要で、何時間でも連続稼働ができる」という人件費の削減と効率的な運用ができる点にあります。しかし、安全監視員とは言え、人を乗務させなければならないのであったら、この特長が活かせません。それどころか、車両の製造コストは一般車の数倍になるわけですから、タクシーサービスとしては人間のタクシーに負けてしまうのです。
では、どうしたらいいのか。あくまでも完全無人運転を目指す企業もありますし、MaaSなどと組み合わせて、タクシーサービス単体ではなく、MaaSとして利益を生み出そうと考える企業もあります。
現在、ロボタクシーサービスの試験運行を始めている企業は数社ありますが、面白いのは、その事業化戦略がそれぞれに違っていることです。
どの企業も、知恵を絞って、さまざまな方法で事業化を模索しているというのが現在の状況です。
これは、逆に言えば、中国の自動運転は、実証実験や試験運行の段階を終え、事業化の段階に差し掛かっているということです。
そこで、今回は、ロボタクシーサービスの試験運行を始めている6社を取り上げて、どのような戦略で事業化を目指しているのかをご紹介します。
試験運行を始めている6社の事業化戦略とは
試験運行を始めている6社の事業化戦略では、ロボタクシー、ロボバス、ロボトラックという3分野の自動運転サービスが本格化をしてきました。
どの企業も、自動運転サービスは次のような段階を経て、サービスが開始されます。
1. 閉鎖区域による試験走行
2. 開放区域(公道)による試験走行
3. 希望する乗客(モニター)を乗せた試験運行
4. 誰でも乗れる試験運行(全面開放)
5. 常態運行(無料)
6. 営業運行(有料)
現在、ロボタクシーで営業運行(乗車賃を取って乗客を乗せる)の段階に進んでいる企業はありませんが、百度(バイドゥ)が常態運行の段階まで進んでおり、営業運行目前となっています。この他、他の企業も公道による試験運行まで進んでいる企業が複数登場しています。
自動運転の最もわかりやすいメリットは、運転手が不要になるということで、人件費が省けるだけでなく、バッテリーの充電なども自動化できれば、何十時間でも連続して稼働ができるという点にあります。
しかし、運転をしない安全監視員とは言え、人が乗務しなければならないのであれば、このメリットがあまり活かせません。
ロボタクシーの製造コストは、一般の乗用車に比べて数倍にもなります。つまり、安全監視員を乗務させた状態では、人が運転するタクシーと比べて、ビジネス的な競争力がないどころか、むしろ不利なのです。
この問題をどうやってクリアして、お金をとって営業運行を軌道に乗せるか、そこが議論されるようになっています。
結論から言うと、ロボタクシー、ロボバス単体のビジネスとして利益を出そうと考えているところはほとんどありません。他の交通機関やサービスと組み合わせることで、サービス全体の価値を高め、利益を出そうと考えているところがほとんどです。