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アフガン速攻制圧を成功させたタリバン支持者組織「スリーパー・セル」とは何か?日本で報道されぬタリバンの怒りと目指す政治=高島康司

各地に忍ばせていた「スリーパー・セル」の存在

その理由のひとつとして指摘されているのは、アフガニスタン政府軍の根強い汚職体質だ。

軍の予算は幹部によって私的に流用され、兵士には何カ月も給料が支払われないことは、日常的だった。また、存在しない兵士の給与を申告し、それを全額横領するようなことも頻繁に行われていた。

このため、政府軍の士気は地に落ちており、最初からタリバンと戦う意志をなくしていた。

たしかにこうした事情が、タリバンの勝利を早めたことは間違いない。しかし、アフガニスタンを専門に取材している調査ジャーナリストの記事などを多く読むと、政府軍の汚職体質だけが、タリバンのあまりに早い勝利の背景ではないことがよく分かる。

多くの記事で勝利のもっとも大きな原因として指摘されているのが、アフガニスタンの主要都市に存在するタリバンの「スリーパー・セル」の存在である。

「スリーパー・セル」とは、タリバン支持者のネットワークのことだ。このネットワークは、あらゆる階層の人々だけではなく、軍や政府の内部にも広まっていた。タリバン司令部の指令で活動するようになっているが、なにもないときはまったく活動していない。いわば寝たような状態になっているので、「スリーパー・セル」と呼ばれる。普通は一般の仕事や、政府や軍の職務に就いている。

アジア全体を取材対象にしており、2001年の911同時多発テロ発生の可能性を半年前の2001年初頭に言い当てていたブラジルの著名な調査ジャーナリスト、ぺぺ・エスコバルの記事によると、ヘラート、カンダハル、そしてカブールなどの主要都市を占拠する場合、タリバンの本体は、都市の郊外で動きを止めて待機していたという。

「スリーパー・セル」のネットワークにつながった人々が、タリバン司令部の指令で活動を始め、政府機関や軍の実権を掌握したという。

そのため、タリバンの本体は都市に入ったときには、抵抗らしい抵抗はほとんどなかったとしている。

「スリーパー・セル」とは何なのか?

今回のタリバンによるあまりに早いアフガニスタンの全土の制圧を見ると、「スリーパー・セル」の存在と、その役割が大きかったことは納得がいく。

しかし、もちろん、こうした「スリーパー・セル」が、タリバン支持のネットワークであるとしても、これだけ速いスピードで進攻を実現するためには、これが相当な規模でアフガニスタン全土に存在していなければならない。

「タリバン」の支持者は、そんなに多いのだろうか?そして、「スリーパー・セル」のネットワークに参加しているのは。どういう人々なのだろうか?

実はこれを知るためには、アフガニスタンという国の民族構成を見なければならない。

タリバンと聞くと、「アルカイダ」や「IS」のようなイスラム原理主義のイデオロギーによる、世界変革を目標にした国際的テロリストの集団を思い浮かべるが、実はそうではないのだ。

例えば「IS」がよい例だが、「IS」にはイスラムの原理によって統治される「カリフ国」の建設を目標にしている。オスマントルコの統治時代には、現在の北アフリカから中東の一帯は「レヴァント」と呼ばれていた。「IS」は「レヴァント」に「IS」が統治する広大な「カリフ国」を建設することが目標だった。だから、北アフリカから中東全域の国家を攻撃し、地域全体を流動化しようとした。現存の国家の解体である。これが国際的なテロリズムを実施する大きな動機であった。

しかし、タリバンにはこのような世界戦略のようなものはない。実はタリバンは、アフガニスタンの「パシュトゥン人」の組織なのだ。アフガニスタンは多民族国家であり、以下のように構成されている。

・民族: パシュトゥン人、タジク人、ハザラ人、ウズベク人
・言語:ダリー語、パシュトー語(公用語)

それぞれの民族は、複数の部族に分かれて、特定地域で暮らしている。地域コミュニティーの秩序は、すべて部族が管理している。「パシュトゥン人」は、アフガニスタン最大の民族で、全人口の45%を占める。

この「パシュトゥン人」こそ、タリバンの基本的な支持基盤であり、また各地に存在する「スリーパー・セル」の中核だったのだ。

このように見ると、「スリーパー・セル」の規模の大きさが想像がつく。要するに「タリバン」は、かなり以前からアメリカ軍撤退に備え、主要地域で政府や軍の機関をいっせいに掌握できるように、「パシュトゥン人」の「スリーパー・セル」を使い、周到に準備していたということだ。

Next: タリバンが目指すのは、それぞれの部族に自治権を与える国家

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