今回は「選挙=株高」のアノマリーは通用しないようだ。岸田首相の言う「令和版所得倍増」でどんな政策を打ち出すのか具体的に見えず、大幅な海外投資家の日本株売りを招いたと言える。総裁選前後の日経平均の動きを振り返り、今後の展開について考えたい。(「週報『投機の流儀』」山崎和邦)
※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2021年10月17日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
史上最短の日程で進む衆議院選挙
岸田首相は組閣から解散までの日数は史上最短、公示から投開票までの日数も史上最短という作戦をとった。
当面の争点はコロナ対策だが、それはあくまでも「当面の争点」であろう。本質的な争点となるのは、新自由主義を「転向」して「新資本主義」に向かう「令和版所得倍増」である。
首相が自ら言っているが、「倍増」は池田勇人首相時代の「10年でGDPを2倍にする」(実際には7年で達成した)の2倍を言っているのではなくて、あくまでもスローガンであるという。
今回の選挙について、岸田首相は「未来選択選挙」と名付けた。「令和版所得倍増」を目指す岸田政権の信認を問う選挙となる。
日本株だけに起きた「岸田ショック」
菅前首相が総裁選不出馬を表明した9月3日から10日足らずで2,200円急騰した。そして、岸田首相が自民党総裁に勝利した9月29日以降は6日間で2,600円続落した。
この続落は中国恒大集団の経営危機、米国の債務上限問題、原油高などの海外要因が指摘されているが、海外株式はほぼ横ばいだったことに対し、日本だけ暴落した。これは本稿が常々言ってきたように、急騰も急落も、日本株式がいかに政策と密着しているかを示すものである。
岸田首相は「私の特技は人の話しを聞くことです」と総裁候補の時代から言っていたが、彼は今、市場が送ってくるメッセージを聞いたのだろうか?金融所得課税の見直しを前言撤回した。
これは「人の話しを聞くこと」として市場のシグナルを読み取ったのか、この柔軟性が岸田政権の特徴になるのだろうか。金融所得課税が日本株暴落の原因だとする市場の声に配慮したと見られる。この柔軟性が岸田政権の特徴になるかもしれない。
ところが、ケチをつけようと思えばいくらでもケチがつく。一貫した信念がないとか、すぐ前言撤回する首相だとか、言えば何でも言える。
「岸田内閣を売った」海外勢
10月の久しぶりに大幅な海外勢の売り越しは「岸田内閣を売ったのだ」と言える。「先行ウリ」「理想ウリ」であったが、「ちょっと待てよ」となった。
8日に行われた初めての所信表明演説で、それがはっきりした。「成長と分配の好循環」だけでは抽象的な理念であって具体的ではないが、所信表明演説ではある程度具体的なことを述べた。これは株式市場に対する逆風となった。子育て世代への給付金支援はともかくとして、賃上げをした企業に対しては税制優遇する方針を唱えた。
これが分配重視の姿勢だとすれば、企業の富が従業員に移ることになる。投資家が投資するのは企業であり、従業員ではない。分配重視の姿勢を示す改革について一言も触れなかった。よって、成長と分配の好循環の具体的な道筋は見えてこなかった。
昨年秋の菅前首相の所信表明演説は、ミクロ面に偏ったきらいはあったが、改革という言葉が十数回出た。海外投資家を扱う証券会社では「改革」という単語と海外勢の買いの関連性を関数として見ている。成長と好循環の道筋が見えない、改革の言葉が出てこない、演説で強く打ち出した言葉は「分配」だ。
そこで8日の閣議で対策づくりを指示した。党内の実権を掌握する幹事長の役割は成長論者の甘利氏である。また、宏池会から出た総理は創始者の池田勇人も、次の宮澤喜一も経済通だったし、成長論者であった。
よって、岸田首相は成長を否定するわけではないだろう。否定するならば、成長論者の甘利氏を最も実験を握るポストの幹事長にはしなかったはずだ。