バイデン政権の政策を非難する声
そして、このような物不足とそれによるインフレの昂進の原因を2兆ドルの経済対策や、1.2兆ドルのインフラ建設対策などのバラマキ政策にあるとして、バイデン政権を非難する声も強い。
過去の民主党政権のベテランを含むエコノミストのなかにも、インフレは自業自得だとする見方も多い。
ローレンス・サマーズもその一人で、3月に大統領が署名した景気刺激策は、サプライチェーンの混乱によってアメリカ人が買いたいものを手に入れるのが難しくなっている時期に、個人消費を刺激しすぎたと指摘している。オバマ政権とクリントン政権で活躍したサマーズは、インフレが制御不能に陥る危険性があると述べており、他の民主党のエコノミストもリスクがあると認めている。
また、ハーバード大学のエコノミストで、オバマ大統領のもとでホワイトハウス経済諮問委員会の議長を務めたジェイソン・ファーマンは、「元々の罪は過剰なアメリカの救済計画であり、生産量の増加と同時に価格の上昇にも貢献した」と述べ、バイデン政権のバラマキ政策を非難した。
仕事はあるのに人手不足
このように、物不足とインフレを引き起こしたのはバイデン政権の政策ミスではないのかという認識が広まるにつれ、トランプへの支持が高まり、一時は低迷していたトランプの勢いが回復しているのだ。
しかし、物不足とインフレの原因がすべてバイデン政権のバラマキ政策にあるのかというとそうではない。これらが発生している主要な原因は、サプライチェーンの寸断による物流の遮断である。
そして、その原因のひとつは、深刻な労働者不足だ。
アメリカのGDPは2020年2月に比べて拡大している。しかし、全体では約700万人の労働者が減少しいているのだ。これは、ペンシルバニア州の全労働人口に匹敵している。これはパンデミックから回復し、急成長中の経済では考えられないことだ。賃金は上昇しているし、求人はどこにでもある。しかし、仕事をしたい人がいないのだ。
当メルマガの第662回の記事で書いたように、働かないことを選択した人々は、
1)退職金と年金
2)預金、株取引やビットコインなどの投資
3)ネットビジネスとSNS
4)家庭菜園と農業
などの方法を組み合わせて、生活が維持できてしまっている。
これは、労働者による一種の広範な抗議行動に見える。より多くの人々が職場を拒絶し、家族と過ごす時間を増やし、あるいは完全に仕事に戻ることを避けている。この労働者の反乱が今後労働者の革命になるかどうかは分からないが、労働と資本の関係を変える確実な転換点となる可能性は大きい。
もちろん、このような労働者の行動の変化による人手不足は、バイデン政権の責任とはいえない。バイデン政権は給与を上回る水準の手厚い失業給付を支給したが、この支給が打ち切られても多くの人々は働かない選択をしているのだ。
これをバイデン政権のせいにするのは少し酷だ。だが、それでも労働者を怠惰にしたとして、バイデン政権が非難されているのだ。